えぐちです。
今日から4日間にわたり、昨年度の2次筆記試験の出題の趣旨を考察していきます。
EBA解答例も併せて参考にしてください。
なおEBA解答例は11月4日に作成したものです。
趣旨を踏まえて変更・修正する箇所は今日現在ではありません。
では、事例Ⅰからみていきましょう。
第1問(配点20点)
研究開発型企業であるA社が、相対的に規模の小さな市場をターゲットとしているのはなぜか。その理由を、競争戦略の観点から100字以内で答えよ。
【出題の趣旨】
研究開発型企業であるA社のターゲット市場が小規模市場である理由を、競争戦略の視点から分析する能力を問う問題である。
主語が「A社が」から「市場が」に変更されていることから、出題者がこの意図を汲みとらせる意図を持っていると考えられます。
主語が「A社が」の場合、そのまま「A社の戦略」となりますが、「市場が」となると「市場特性」を書かせる意図に変わります。
ただし、設問解釈自体に大きな変化はないと考えます。
小規模市場という市場特性がA社の経営戦略にもたらす効果を想定させる意図の問題でした。
【EBA解答例】
大手企業が参入しにくいニッチ市場向けの製品開発を行うことで競争を回避し、研究開発投資負担を特定市場に集中させて開発効率を高め、技術力を強化することで独自で開発できる多様で幅広い製品開発を実現できるため。
第2問(配点40点)
A社の事業展開について、以下の設問に答えよ。
(設問1) A社は創業以後、最終消費者に向けた製品開発にあまり力点を置いてこなかった。A社の人員構成から考えて、その理由を100字以内で答えよ。
【出題の趣旨】
A社が最終消費者市場向けの製品開発に積極的に取り組んでこなかった理由を、人員構成の視点から分析する能力を問う問題である。
「最終消費者」が「最終消費者市場」に変更されています。
「人」の表現が「市場」という表現に変更がされたことで、第1問と同様に本問も「市場」がテーマの問題であったことが明らかになりました。
両問の識別は「規模と機能」で分類できます。
第1問は「市場規模」に焦点を当てており、「競争戦略」という理論制約から、ポーターの競争戦略論を想定させる問題であることは明確です。
これに対して第2問(設問1)は「機能」に焦点を当てて理論想定させる意図があったと考えられます。
その理由が「最終消費者市場」という表現の変更です。
価値連鎖(バリューチェーン)の視点では、メーカーであるA社が最終消費者(消費財)市場を選択するのか、中間財市場を選択するかにより、保有する必要がある機能が異なります。
最終消費者市場向けの製品開発には主要活動(購買、オペレーション、出荷、マーケティング、サービスの5つの活動)すべてが必要となりますが、中間財市場を選択した場合、このうちマーケティング、サービスの活動の一部を保有せずに済みます。
A社は価値連鎖のうち支援活動である「技術開発」のみ保有する企業でした。
メーカーであれば当然保有すべき生産機能(購買、オペレーション、出荷)を信頼できるパートナー企業に委託することで、少ない経営資源を技術開発に集中させ、「技術開発力」の強みを強化できたと考えられます。
これが「ほとんどが正社員で9割が技術者」という人員構成を維持できた理由です。
【EBA解答例】
約50名のほとんどが正規社員で、技術者が9割を占める研究開発中心の企業である。生産や販売を外部企業に委託することで主要機能を自社で保有せずに研究開発に経営資源を集中でき、多くの付加価値を生み出せるため。
※上記解答例の結論「多くの付加価値を生み出せるため」は、価値連鎖理論に基づく効果ですが、これを「技術開発力を強化できるため」としても適切な解答になります。
※ちなみに「50名のほとんどが正規社員」というキーワードは重要です。その理由はご自身で考えてみてください。
第2問(配点40点)
A社の事業展開について、以下の設問に答えよ。
(設問2) A社長は経営危機に直面した時に、それまでとは異なる考え方に立って、複写機関連製品事業に着手した。それ以前に同社が開発してきた製品の事業特性と、複写機関連製品の事業特性には、どのような違いがあるか。100字以内で答えよ。
【出題の趣旨】
A社が経営危機に立ったとき展開した事業と、それ以前の事業の特性を分析し、その違いを明らかにする能力を問う問題である。
特徴的な情報は読みとれません。
【解答例】
これまでは売切り型の事業特性だったが、複写機関連製品事業は、情報通信技術の急速な進歩にA社の技術専門知識で対応することで同業他社に対して競争優位を構築でき、部品や消耗品など顧客との継続取引が可能となる。
第3問(配点20点)
A社の組織改編にはどのような目的があったか。100字以内で答えよ。
【出題の趣旨】
A社の組織改編が、どのような目的をもって実施されたかについて明らかにする能力を問う問題である。
出題の趣旨からは特徴的な情報は読みとれません。
組織デザインの問題は出題の趣旨で情報が追加されることはほとんどありません。
その理由は、このレイヤーの問題は「組織デザイン」という明確な理論(=エビデンス)が存在するため、その狙いは容易に想定することができるからです。
本問は難問でしたが、それでも趣旨で情報を明かさないことからも、「種がばれたらサービス問題になり今後の作問に影響する」ことを忌避している様子が窺えます。
【EBA解答例】
多様な分野の専門知識を持つ技術者を製品開発部門のグループに混成チームとして配置することで、状況変化に柔軟かつ迅速に対応し、新しいアイデアの開発や問題解決を図り、製品開発部門長を後進としての育成を図った。
第4問(配点20点)
A社が、社員のチャレンジ精神や独創性を維持していくために、金銭的・物理的インセンティブの提供以外に、どのようなことに取り組むべきか。中小企業診断士として、100字以内で助言せよ。
【出題の趣旨】
従業員の大半を占める技術者のチャレンジ精神や独創性を維持していくために、A社は、どのような施策に取り組むべきか、助言する能力を問う問題である。
施策対象者情報が「社員」から「従業員の大半を占める技術者」に変更されました。
この変更により後継者(後任経営者)育成は第4問に対応しないことが明らかになりました。
その理由は「従業員の大半を占める技術者」を後継者として育成しても、設問条件である彼らの「チャレンジ精神や独創性」は維持されないからです。
そしてこれにより、A社の「事業を委ねる後進育成」課題は、時制制約の観点から第2問以前に対応させることは妥当ではないため、第3問(機能別組織の逆機能解消)に対応したと判断することができます。
この問題と上記第3問の関係を踏まえた解説は、企業診断1月号の特集で詳細に解説していますので、興味がある方はそちらをお読みください。
【EBA解答例】 各グループに自由裁量の余地を与えて内発的動機づけを図る。新卒者採用も行い多様な人材を社内に取り入れ組織を活性化する。製品開発部での開発機会を与える配置転換を行い、個人評価に加えてチームによる評価も行う。
いかがでしたか。
出題の趣旨を注意深く解釈することは、本試験の正答を明らかにするためにも重要なプロセスであり、2次試験に合格するために最も重要なプロセスになります。
その理由は、「答えがわからなければ難易度評価もできず、今年の2次試験の対策ができない」からです。
また、演習問題を作問するにも、出題者の題意に沿った要求設計、与件設計、解答作成の精度に大きく影響します。
EBAでは上記解答例を基準に再現答案採点をしました。
事例によって評価基準自体に多少のズレはありましたが、データ分布から、採点の根拠となるEBA解答は出題者の意図に沿っていたと考えています。
こちらのブログで紹介していますので、興味ある方はご覧ください。