えぐちです。
昨日にひきつづき、今日は今年のC社について書きます。
1.C社の概要
1)C社の経営戦略
C社は大手電気・電子部品メーカー数社を顧客に、電気・電子部品のプラスチック射出成型加工を営む中小企業です。従業員数60名、年商約9億円、会社組織は総務部、製造部で構成されています。
創業当初のC社の受注業務は、顧客企業から金型の支給を受けて成形加工を行っていましたが、1990年代後半から顧客企業の生産工場の海外移転に伴い量産品の国内生産が減少し、主要顧客企業からの受注量の減少が続きました。
顧客企業にとってのC社はたんなる「加工屋」であり、海外企業に容易に代替できる価値しかなかったわけです。
こうした顧客企業の動向に対応して、C社は金型設計と金型製作部門を新設し、製品図面によって注文を受け、金型の設計・製作から成形加工まで対応できる後方垂直統合を行いました。
またC社は、1980年に移転した工業団地の中小企業が、C社の顧客企業と同じく、大手電気・電子部品メーカーを顧客企業とする金属プレス加工、プラスチック加工、コネクター加工プリント基板製作を行う企業であることから、C社が工業団地組合活動のリーダー的存在となり、共同受注や共同開発を実施してきました。
その後、国内需要分の家電製品の生産が国内に戻る傾向があり、以前の国内生産品が戻り始めましたが、顧客企業からの1回の発注量が以前よりも少なく、受注量全体としては以前と同じレベルまでは戻りませんでした。
今後も従来と同様の加工の受注が回復することはないと判断した社長は、最近になって、成形加工の際に金属部品などを組み込んでしまう成形加工(インサート成形)を習得しました。
これにより、それまではC社の成形加工品を納品後、顧客企業が他社の金属加工品とC社の成形加工品を組み立てる必要があったものが、金属加工品をC社の成形加工で組み込んで納品できるため、顧客企業の工程数の短縮や納期の短縮、そしてコスト削減も図れることになります。
C社は、このような革新的な取り組みにより、顧客企業からの受注量の減少に対して、受注単価の改善により業績を維持することができました。
C社はこれまでの経験から、成形加工の金型を設計・製造する前方垂直統合と、顧客企業の金属加工品の組立を不要とするインサート成形による後方垂直統合に取り組むことで、創業時の「加工屋」から顧客企業の工程数を大幅に削減できる多工程受注が可能な企業へと成長しました。
さらに今後は、工場団地組合の中小企業と連携した共同開発や共同受注を推進するオープン・イノベーションに取り組むことで、C社単独ではできなかった受注が可能になるだけでなく、産業集積の立地上の優位性を活かして短納期・低コストにも対応できるようになります。
C社はこのように顧客企業に利益をもたらす生産体制を構築することで、わが国中小製造業の経営が厳しさを増す中で、高付加価値な受注が可能な企業へと進化しようとしています。
2)C社の生産戦略
①生産現場の対策
C社にとって段取り改善は、今後のジャストインタイムな生産へ移行するために不可欠な課題でした。C社はマン・マシン・チャートを分析することで、現状作業の中のムダを明らかにしたうえで、これを排除することに取り組みました。
マン・マシン・チャートから読みとれたことは、多台持ちしている成形加工作業について、段取り作業時間が長く、待ち時間が多いという問題点でした。
C社が詳細な問題点の原因を探った結果、段取り作業そのものにムダがあることがわかりました。
作業者は、前の製品の成形加工が完了し、その製品の金型を取り外したあとに、その金型を金型置き場まで運んでいますが、この間、機械は空転状態です。
また、作業者は前の製品が自動加工されている間、手待ちとなっているにも関わらず、この時間に次の製品の段取りをしていません。
このような作業方法のムダを改善することで、機械の停止ロスが改善できます。
C社は、作業者の手待ち時間に次の製品の金型や材料を予め加工機械まで運んでおくこと、そして、つぎの製品が自動加工の状態に入った後に、加工完了した製品の金型を金型置き場まで運搬することにしました。
これにより段取り作業時間を大幅に改善することに成功しています。
また、C社の受注加工品の中では、製品Aの受注量が最も多くなっています。
この製品加工は、ロットサイズが最も大きいため、ほかの製品よりも成形加工時間が長くなっています。
ほかの製品は相対的に加工時間が短く、優先的に段取り作業を行うことで午前中に加工完了することができますが、現在のC社は、製品Aの段取り作業を優先していることから、昼休みの時間に機械が停止状態になっています。
C社は、製品Aよりもロットサイズの小さい他の製品の段取り作業を優先することで、午前中に加工を完了させることができ、上記の段取り改善と併せ、これまで昼休み後に加工していた次の製品を、午前中に加工開始させることが可能になります。
これらの改善により、作業者や成形機械の待ち時間を短縮し、機械の停止ロスを改善することができます。
②生産管理面の対策
C社は生産管理面の対策として、まず、生産計画の見直しに着手しています。
主要な顧客企業からの成形加工品は繰り返し発注され、毎日指定の数量を納品しています。
受注の大半は顧客企業X社からのもので、その中でも製品Aの指定納品数量が最も多くなっています。
顧客企業からの受注も安定していましたが、C社は生産効率を上げるために生産ロットサイズを受注量よりも大きく計画していたことが原因で、過大な製品在庫が問題となっていました。
さらに、他の製品については、毎日の指定納品数量が少なく、変動することもあるため、製品A以上に在庫管理に苦慮しています。
C社は過大な在庫問題の解消と、少量受注品の需要変動に柔軟に対応した生産計画をたてるべく、これまでの週に1回の生産計画を、毎日の生産に改めました。
これに伴い、生産効率を重視して大きめに設定していた生産ロットサイズも、日々の指定納品数量に合わせて小さくしました。
C社の経営方針はジャストインタイムの生産体制の構築ですが、これを実現するためには、2つの前提をクリアする必要がありました。
1つは受注の平準化です。
幸いなことにC社の指定納品数量は安定しているため、ロット分割生産により毎日の生産ロットサイズを小さくでき、平準化生産が実現できます。
もう1つは段取り改善です。
これはマン・マシン・チャートの分析により改善可能です。
上記の取り組みにより、C社は製品在庫の抑制を実現し、平準化生産を可能にすることで毎日の指定納品数量の小さい製品の需要変動にも柔軟に対応できるようになりました。
C社はまた、生産統制面の改善にも取り組みました。C社の生産現場でも問題になっていた金型や使用材料を探す時間のムダのなくすことで、生産管理のコンピュータ化を推進しています。
具体的な取組として、C社は現品管理に取り組みました。
まず、金型は支給品も含めて置き場を集約し、社内で統一した識別コードを付けて誰でもわかるようにしました。
これによりこれまでベテラン作業者しか探すことができなかった金型も、だれでも探せるようにしました。
さらに、仕入先から材料倉庫に納品される使用材料についても、これまではその都度納品位置が変わっていたものを、納品位置を指定し、固定することで、使用材料を探す必要性をなくしました。
これにより、金型・使用材料を探す時間をなくして成形加工課の作業者が効率よく金型・材料などを使用できるようにしました。
C社はこれらの改善に取り組むことにより、生産管理と生産現場のそれぞれの問題点・課題を克服することで両者の連動性を図り、ジャストインタイムな生産体制の構築に取り組み、顧客企業の短納期化、小ロット化、多品種少量化の要望への対応を図っています。
以上です。
今年の事例Ⅰと事例Ⅲは、今年の1次試験の理論が不可欠な問題が多数出題されました。
1次試験と2次筆記試験との関係を意識した学習の重要性を示していると思います。
これについては、今月27日に発売される「企業診断1月号」の特集で解説していますので、来年2次試験を受験される方はぜひお読みください。