2次筆記試験の結果発表まであと2日となりました。
EBAでは2次筆記試験に合格した受講生用に口述試験対策用資料を配布する予定です。
口述試験は試験というより面接・面談に近い試験で、
今年の2次試験の事例企業の概要を頭に入れたうえで基本的な1次理論を使った応答ができれば合格します。
1次試験や2次筆記試験と異なるのは、
①口述試験であり、「選択」でなく「暗記」が前提となること ②理論を誤って使用して答えても問題ないこと ③事例企業の情報は事前にインプットしておく必要があること
といった特徴があります。
口述試験は、「理論の内容でなくコミュニケーション能力が問われる試験」と考えてよいでしょう。
このため上記①②よりも、③が重要になります。
事例企業について質問されるため、事例企業のデータがインプットされていないと会話が成立しないからです。
といって、付け焼刃で事例企業のデータをまるっと暗記しても、当日の緊張ですっとんでしまうなんてことはよくあります。
このため、EBAでは口述試験対策として、事例企業の概要を「読み物」として読んでもらえる資料を提供します。
事例企業の内容を、「物語」として読んでもらうことで、忘れても思い出しやすくすることが狙いです。
すでにA社については紹介済みなので、今回はB社について書いてみました。
口述試験の参考にしてください。
1)B社の置かれている状況
観光地としてここ5年でインバウンド客が急増するX市市街地中心部に立地するB社は、X市の活気に取り残された老舗日本旅館です。
代々、外部環境の変化に鈍感な経営を続けてきたことから、固定客の減少という課題に直面しています。
現在のB社の利用客は、昔なじみのビジネス客が8割で、この顧客層は高齢化が進行して減少傾向にあります。
B社は特に意識して呼び込んだわけではありませんが、2割はここ5年急増するインバウンド客が利用しています。
B社はX市市街地からは遠く、最寄駅から距離があります。
駅前にはチェーン系ビジネスホテルが2軒あり、駅前に立地していますが、観光地であるX市市街地中心部からは距離があるため、観光客にとって利便性の良いホテルとは言えません。
観光地であるX市市街地中心部にはB社以外の宿泊施設がありません。このため、X市市街地を観光するためには、駅前のビジネスホテルから日帰りでいくしか手段がありません。
B社の近くには通年で夜間ライトアップされる名刹・古刹が散在しており、最近ではほとんどいなかった夜間の滞在人口は増加傾向にあります。
古刹・名刹を訪れる観光客は、周辺に宿泊施設がないことからも、夜にはバスで駅前のビジネスホテルに戻っていると思われます。
このような環境変化の中で、高齢化により減少する昔なじみの客に変わる新たな主要顧客層の開拓は、B社の課題となっています。
2)B社の経営資源の整理と制約条件
B社は父親である先代社長が2年前に死亡し、事業承継した8代目社長が経営しています。
従業員は家族従業員3名、パート従業員4名と少ないですが、このうち1名は英語に堪能な従業員です。
客室数は15室と少なく、最大収容人数は50名と、比較的小規模の旅館です。
B社旅館は明治初期に創業した150年の歴史をもつ旅館です。
1人1泊朝食付きで7,500円の基本プランがありますが、社長としては既存客との兼ね合いもあり、宿泊料金を上げるつもりはありません。
また宿泊棟の改築などの大規模な投資は当面避けたいと考えています。
B社には、次のような顧客を惹きつける資源を有しています。
・館内の大広間の窓からは、和の風情がある苔むした庭園を眺めることができる ・海外でも名の知られた作家や芸術家による美術品が館内随所に配置されている ・ホームページから外国語でも宿泊予約が受け付けられる ・従業員教育により主要な外国語で最低限のコミュニケーションが図れる ・日本の朝を感じられる献立とこだわりの器による朝食が味わえる
B社が新たな主要顧客層を開拓するためには、まずターゲットに効果的に到達し、そのうえでターゲットが求めるニーズを満たし、顧客がリピートしたくなるような体験を提供する必要があります。
この視点で考えた時、B社には「海外で知名度ある芸術家の作品」という、ターゲットを惹きつける資源を持っており、「外国語で宿泊予約できるホームページ」により、顧客の利便性を提供しています。
これらのリーチ資源で顧客を惹きつけることができたのちにも、「英語に堪能な従業員」や「和の風情を味わえる苔むした庭園」「日本の朝を感じられる献立やこだわりの器の朝食」といった、体験価値を提供できる資源も保有しています。
B社がこれらのマーケティング資源を適切に活用することができれば、新たな主要顧客層を獲得することができそうです。
①B社のプロモーション戦略
B社が新たな顧客層を拡大していくために、まずはB社の魅力・価値をターゲット層に訴求する(知ってもらう)必要があります。
このためにB社はホームページや旅行サイトに掲載する情報を改善することにしました。
これまではB社の建物の外観や館内設備に関する情報を掲載していたのですが、反応はいまひとつでした。
このためB社は、ここ5年間で急増しているインバウンド客を主要顧客層と位置づけ、彼らに効果的に訴求できる自社資源の情報を掲載することにしました。
特にここ数年は、和の風情を求めるインバウンド客が急増していることから、B社は、自社が保有する「和の風情」に適合した資源を掲載することにしました。
具体的には、「館内の大広間の窓から和の風情がある苔むした庭園を眺めることができること」、「海外でも名の知られた作家や芸術家による美術品が館内随所に配置されていること」、「日本の朝を感じられる献立とこだわりの器による朝食が味わえること」を訴求することにしました。
そのうえで、外国人でも最低限のコミュニケーションができる従業員が存在することを訴求します。
これにより、X市市街地の観光人気の中で、来街するインバウンド客に、たんなる宿泊施設としてではないB社の魅力を訴求することができそうです。
②B社のコミュニケーション戦略
B社は特に特別なことをしてきたわけではないのですが、現在、2割の宿泊客はインバウンド客です。
B社は今後の主要顧客層とすべきこの顧客層に対して、B社ならではの特別な体験価値を提供することで、宿泊客による好意的なクチコミをより多く誘発し、新規顧客の獲得を図る必要性を感じました。
このためにB社は、語学堪能な従業員や、最低限の外国語によるコミュニケーションが可能な従業員を活かした、宿泊客との交流をおもてなしの一環として行うことにしました。
といっても、B社の従業員はパート従業員3名ですので、昼間にできるサービスに限られます。
B社の具体的な取組みは、X市市街地の観光案内でした。
市街地中心部は400年も続くと言われる地域の祭りが有名で、有料で山車を引く体験ができたり、食べ歩きできるスイーツや地域の伝統を思わせる和菓子が楽しめる地元の老舗商店があります。
B社が宿泊客を案内し、これらの体験を共有して共に写真撮影してあげることで、SNS投稿を促します。
これにより、「B社だからできる」特別な体験を共有することで、宿泊需要を増加させることを狙います。
③B社のマーケティング戦略
B社はまた、既存の宿泊客へのコミュニケーションとは別に、新たなマーケティング戦略への取り組みの必要性を感じています。
というのも、B社の周辺にある他の業種の店々は、拡大する観光需要をバネに、このところ高収益を上げているにもかかわらず、B社だけがこの需要増加の恩恵を享受できていないからです。
B社はX市の夜の活気を取り込んで、B社への宿泊需要を生み出したいと考えています。
夜間の滞在人口は増加傾向にありますので、彼らに適切に到達し、B社がもつ資源によりニーズに適合することができれば、事前に予約のない客の宿泊を増加させることができるかもしれません。
しかしB社としては、経営の先行きが不透明であるため、大規模な投資は当面は避けたいと考えています。
B社は、「夜の活気」の現状を調査したところ、夜間の滞在人口増加は、X市の名刹が通年で夜間ライトアップされるようになったことが原因だとわかりました。
X市を訪れる観光客はインバウンド客が急増しており、夜間滞在人口の多くもインバウンド客であると考えられます。
彼らは和の風情を求めてX市の名刹・古刹を訪れているのでしょう。
そしてB社がもつ和の風情がある苔むした庭園は、「和の風情を求める」彼らのニーズに適合できます。
さらにB社の旅館はこの名刹・古刹からは徒歩圏内ですので、このターゲット層に効果的に到達することが可能です。
B社は方針として大規模な投資は当面避けたいと考えていますが、この庭園を夜間ライトアップする程度の投資なら実現できそうです。
さらにB社は、宿泊需要を生み出すための施策を検討しました。
それは、B社のもつ「日本の朝を感じられる献立とこだわりの器による朝食」の体験価値を訴求することで実現できそうです。
これらの施策により、B社は事前予約のない宿泊需要を喚起することを目指しました。
B社はこれらのマーケティング戦略、プロモーション戦略、そしてコミュニケーション戦略を組み合わせることで、減少する既存顧客層に変わる新たな顧客層の獲得を目指しました。
今後、仮に駅前のビジネスホテルがX市市街地中心部に進出してきたとしても、B社の提供する価値は容易に模倣されることなく、増加するインバウンド客を固定客として維持することができるでしょう。
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