【2次】事例Ⅰ第1問 「市場縮小は理由になるか」

第1問(配点 20 点)

A 社長がトップに就任する以前の A 社は、苦境を打破するために、自社製品のメンテナンスの事業化に取り組んできた。それが結果的にビジネスとして成功しなかった最大の理由は何か。100 字以内で答えよ。

中小企業診断士2次筆記試験 令和元年度 事例Ⅰより


先日、今年の事例Ⅰ第1問の検証をしましたが、EBAでの解答は、

⑴コア資源を活用した事業ではないこと

⑵メーカーであるA社はサービスノウハウを蓄積できなかったこと

上記の2つの要素を要因としています。これは平成28年と平成27年の経営戦略レイヤーの問題の類題となります。

この問題の与件解釈をすると、以下の段落が対応することが確認できます。

 しかし、2000年を越えるころになって、小さな火種が瞬く間に大きくなり、2000 年代半ばには、大きな問題となった。すでに5年以上のキャリアを積み経営層の一角 となってトップ就任を目前にしていたA社長にとって、存続問題は現実のものと なっていた。そこで、自らが先頭に立って自社製品のメンテナンスを事業化すること に取り組んだ。しかし、それはビジネスとして成り立たず、売上減少と費用増大という二重苦を生み出すことになってしまった

中小企業診断士2次筆記試験 令和元年度 事例Ⅰ 与件本文4段落より


上記根拠から、A社のメンテナンス事業がビジネスとして成功しなかった理由は、自社製品の市場縮小が原因だと考えてしまうかもしれませんが、この解答は「最大の理由」にはなりません。この要因を最大の理由とした方は、

葉たばこ市場の縮小→葉たばこ乾燥機の売上減少→メンテナンス事業の縮小→売上減少と費用増大

という因果関係で解釈したうえで結論付けています。しかし、この解釈には以下の2つの疑問に説明ができません。


⑴葉たばこ乾燥機の売上は、メンテナンス事業の進出当時すでにA社の「存続問題」になるほどまで減少していた。



A社長がメンテナンス事業に参入した当時は、「小さな火種は瞬く間に大きくなり、2000年代半ばには、大きな問題となっていた。すでに5年以上のキャリアを積み経営層の一角となってトップ就任を目前にしていたA社長にとって、存続問題は現実のもの(4段落)」となっていました。そもそもこれがA社長がメンテナンス事業を事業化した理由です。この時点でA社の葉たばこ乾燥機の売上は相当縮小していたことは明らかです。

「このままだとうちの存続は不可能だ。ここは新規事業で減少する葉たばこ乾燥機の売上を補って苦境を打破するぞ!よし、メンテナンスを事業化しよう。このおれが先頭に立てば絶対成功するぞ」


A社長はこんなことを考えてメンテナンス事業を事業化したわけですが、このときすでに、自社製品市場は「存続問題」となるほどに縮小しています。A社長はこの市場のさらなる縮小を想定していたと考えるのが自然です。すくなくとも、葉たばこ乾燥機市場が盛り返すことを想定していたとは考えられません。もちろん、この市場が「想定外」の理由で急激に縮小した場合は理由になり得ると思います(時期的にリーマン・ショックと重なりますので「超類推」のウルトラ解答があるのかもしれませんが)。

【ウルトラ解答例】
リーマン・ショックにより想定外の売上減少に見舞われたため。A社長は葉たばこ乾燥機市場の緩やかな縮小を見込んでいたが、市場規模が劇的に縮小し、メンテナンス事業の売上が激減し、費用増大により収益が悪化した。

⑵メンテナンス事業化失敗後、現在に至るまで葉たばこ乾燥機はA社の主力事業であること


A社はメンテナンス事業の失敗後に、葉たばこ乾燥機に代わる新製品の開発に着手していますが、干椎茸製造用乾燥機が少しヒットしたくらいで、この製品が最盛期の半分以下にまで落ち込んだ葉たばこ乾燥機の売上減少に取って代わる規模になるわけではありませんでした(5段落)。


ここでようやくA社長の新体制に交代したわけですが、その後、A社の新規事業の売上が、これまでの葉たばこ乾燥機の売上を超えたという根拠はありません。書かれてあるのは、新規事業の「開拓」に成功し、新規事業の「拡大」に営業社員が積極的に取り組むようになったという記述だけです(第3問・第4問の設問内)。


つまり、現在のA社は、二言目には「俺が若いころにはなあ」とばかり言ってまったく仕事しないで若手社員にパワハラしまくる高齢社員をクビにして、なんとか事業継続できるくらいの固定費に削減しただけであって、活性化した組織がこれまでの葉たばこ乾燥機の売上を超えるような事業開拓に成功したわけではありません。明記されてこそいませんが、現在のA社の主力事業は葉たばこ乾燥機の製造であると考えるのが妥当です。


仮にそうでなくても、A社が当時取り組んだ事業は、「葉たばこ乾燥機」のメンテナンス事業ではなく、「自社製品」のメンテナンス事業です。A社は中小メーカーで、自社製品を製造販売していますから、葉たばこ乾燥機以外にも自社製品のメンテナンス需要はあります。少なくとも、現在のA社の11億円の売上は自社製品販売によって支えられていますから、「市場縮小でメンテナンス事業も縮小した」という理由は無理があります。


上記の理由により、A社がメンテナンスの事業化に失敗したのは、市場規模の縮小が最大の理由ではないと考えます。A社はおそらく、葉たばこ乾燥機市場が拡大していても、メンテナンス事業で失敗したと思います。それは、A社の保有する経営資源の量と質に最大の理由があると考えるからです。



参考までにA社の最盛期からの売上の推移を図にしました。与件根拠は以下の5つをもとに作成しました。

⑴最盛期(公企業の民営化前)には現在の数倍を超える売上(3段落)→大黒字

⑵A社長が営業の前線で活躍する頃:売上も現在の倍以上あった(3段落)→そこそこ減少

⑶2000年を超えるころになって、小さな火種は瞬く間に広まり(4段落)→急激に減少

⑶2000年代半ばには、大きな問題となった。存続問題は現実のものとなっていた(4段落)→いよいよ赤字か

⑷(メンテナンスの事業化に失敗後)このままでは収益を上げることはもとより100名以上の社員を路頭に迷わすことにもなりかねない状況(4段落)→おそらく赤字

⑸(その後)新製品の開発に着手:最盛期の半分以下にまで落ち込んだ葉たばこ乾燥機の売上減少→もれなく赤字

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