えぐちです。
今回は、昨年にもやりましたが今年度の各事例企業のストーリーを書きたいと思います。
口述試験対策に活用してください。
A社は3代目現社長が経営する中小メーカーです。
かつてのA社は、厳しい規制に守られた参入障壁の高いたばこ産業の生産者を相手とする緩い競争環境の中で、多額の補助金に支えられたたばこ生産業者向けに葉たばこ乾燥機を製造販売していました。
この緩い競争環境は1980年代半ばまで続き、A社は高収益を獲得し続けることができました。
この製品の売上は、最盛期には現在の数倍を超えるまでに増加しました。
当時の営業社員は好業績を背景に、杜撰な在庫管理、計数管理が許されており、各営業所はA社内においても強い発言力を有していました。
A社の経営環境が変化したのは、1980年代半ばの公企業の民営化が進んだ頃です。
これをきっかけに、たばこ市場は縮小し始めました。
健康志向の強まり、受動喫煙問題、葉たばこ生産者の後継者不足や高齢化などの問題が重なり、A社の主力事業である葉たばこ乾燥機の売上が大幅に減少しました。
このころA社長は営業の前線で活躍していました。
この当時、売上は現在の倍以上あったこともあり、一新人社員に過ぎなかったA社長に際立った切迫感はなく、まさか存続危機に陥るなどとは考えていませんでした。
しかし、この当時すでにA社経営の根幹は揺らぎ始めていました。
それから数年が経過し、2000年を超えるころになると、小さな火種は瞬く間に大きくなり、2000年代半ばには、A社の存続問題にまで発展していました。
深刻な市場縮小への対策として、すでに5年以上のキャリアを積み経営層の一角となってトップ就任を目前としていたA社長は、自らが先頭に立って多角化戦略により新たな収益源の確保に乗り出しました。
市場縮小が続く中でA社長が取り組んだ事業は、自社製品のメンテナンスの事業化でした。
しかし、これまで中小メーカーとして営業してきたA社にとって、サービス事業となるメンテナンス事業は自社のコア技術を活用できる事業ではありません。
また、これまで自社製品販売に附帯して、杜撰な在庫管理や計数管理のもとで行ってきたメンテナンスサービスを収益化することは困難でした。
この取り組みはビジネスとして成り立たずに、売上減少と費用増大という二重苦を生み出す結果となりました。
この取り組みにより、A社の経営はますます危機的状況に陥ってしまいました。
このままでは100名以上の社員を路頭に迷わすことになりかねない状況にまで追い詰められたA社は、最盛期の半分以下にまで落ち込んでいた葉たばこ乾燥機に代わる新製品の開発に着手しました。
この取り組みにより、干椎茸製造用乾燥機の販売に成功させることはできましたが、この装置の売上が葉たばこ乾燥機の売上減少を補填する規模にはなりませんでした。
それだけではなく、A社内にはこれらの新しい事業への取り組みに、古き良き時代を知っている古参社員たちが受け入れず抵抗勢力となっていました。
葉たばこ乾燥機はA社の成長を象徴する製品であり、これまでとは異なる新たな取り組みを推進することは、この事業での成功体験をもつ古参社員にとっては受け入れがたい変化であったことは容易に想像ができます。
A社内での協働が得られないままに時間が過ぎ、このままではA社存続が難しいと感じた2代目社長は、会長に勇退し、現社長による新体制が発足しました。
全権を握ったA社長は、まずは長年にわたって問題視されてきた高コスト体質の見直しと、前近代的な経理体制の見直しに着手しました。
A社は経営コンサルタントの助言を求めながら経営改革を本格化させました。
A社は事業継続と企業風土の変革を目的に、定年を目前にした高齢社員の人員削減に取り組みました。
苦渋の決断でしたが、A社長はこれを乗り越えたことで、A社の若返りに成功しただけでなく、コストカットした費用を成果に応じて支払う賞与に回すことができました。
A社は首脳陣の大量交代により組織文化を変革し、大胆な人員削減による若返りにより組織を活性化させることに成功し、さらに成果に応じた賃金制度を導入したことでやる気ある従業員のモチベーションを向上させることに成功しました。
この成功には現経営陣が事業領域を明確にしたことで、A社が今後目指すべき方向性が明らかになった背景があります。
しかしながら、古い営業体質を引きずっていたA社の営業社員を新規事業拡大に積極的に取り組ませるためには、それだけでは難しく、古参社員の人員削減を通じた組織活性化や成果主義の導入が不可欠でした。
これらの社内整備により組織変革に成功したA社は新規事業の開拓に着手しました。
自社のコアテクノロジーを「農作物の乾燥技術」と明確に位置付け、それを社員に共有させることによって葉たばこ乾燥機製造に代わる新規事業開発の体制強化を打ち出しました。
3年という時間を要しましたが、A社は葉たばこ以外のさまざまな農作物を乾燥させる機器の製造と、それを的確に機能させるソフトウェアの開発に成功しました。
製品開発に成功したA社は、この新規事業を必要とする市場開拓、および販売チャネルの構築に取り組みました。
これまでA社が独自で切り開くことができた市場は、従来からターゲットとしてきた既存市場だけであり、この新製品開発において、ターゲット市場を絞ることができませんでした。
そこでA社は、自社の乾燥技術や製品を市場に知らせることを目的として、自社ホームページを立ち上げました。
このホームページを使用して「試験乾燥」サービスを開始しました。インターネットの普及が背景となり、この試験乾燥サービスには多くの依頼があり、初年度だけで100件以上にも上りました。
それまでA社がアプローチすることができなかったさまざまな市場との結びつきもできました。
ホームページの活用により、A社は潜在市場の中でA社の製品や技術を求めるターゲットを明確にすることができました。
ターゲット市場を絞ることができたA社は、自社資源をターゲット市場に注力することで市場から学習し、製品や技術の改良を通じて市場開拓することに成功しました。
このように市場開拓や新たな販売チャネルの構築に成功したA社ですが、さらなる事業拡大を推進するために組織再編を検討しました。
現在のA社において、各営業所で活動する営業部隊が獲得した取引先のニーズを製品改良に反映させるためには、機能間連携に課題がありました。
このためA社は組織再編を検討しましたが、経営コンサルタントは、現段階での組織再編には賛成できない旨を伝えられました。
A社は機能別組織を採用していますが、営業部はA社長の弟が、製造・開発部はA社長のいとこがそれぞれ統括しており、A社長が大所高所からすべての部門に目配りできる体制となっています。
このため、A社長の業務負担は軽減されており、また経営陣の若返りにより後継者育成の心配もありません。
A社長が目配りにより営業や製造・開発部の連携を担うことで、A社全体として組織的な対応が可能となるため、現在の機能別組織の長所を活かした新規事業拡大ができると考え、A社長は経営コンサルタントの助言に従い、今回の組織再編を見送りました。
以上が今年のA社です。
組織は戦略に従うといいますが、A社がこれまでの経営戦略を見直し、コア技術を活かした新規事業の拡大を推進するためには、経営組織の再編が必要であったことが想像できます。
平成28年度の印刷業A社もアルバムの新たな需要を開拓するという経営戦略の転換に合わせて組織改編に取り組みました。
令和元年のA社は、若返りに成功した現時点では、まだ組織再編する必要はないと経営コンサルタントが判断したと考えられます。
これからこの新規事業が拡大したのちに、環境変化への迅速な対応を図るために組織再編を実行するのかもしれません。
コメントは受け付けていません。