えぐちです。
今年度の2次試験は昨年度と比べて難化しました。
その難しさの直接的な要因は「設問解釈のわかりにくさ」を理由とする題意の把握しづらさにあったと言えます。
一方で、解答作成において期待される理論自体はこれまでの問題と比較して難しくなっているわけではありません。
求められる知識が発揮しにくい問題が多かったことが要因と言えます。
事例Ⅰ第2問(配点 20 点)
A 社長を中心とした新経営陣が改革に取り組むことになった高コスト体質の要因は、古い営業体質にあった。その背景にある A 社の企業風土とは、どのようなものであるか。100 字以内で答えよ。
→「古い営業体質の背景にあるA社の企業風土」の説明が期待されていますが、一見、「高コスト体質の要因」を答えてしまいそうになります。
前半の文章に引きずられて題意を外すリスクの高い問題ですが、落ち着いて設問要求を整理すれば要求内容自体は難しくありません。
事例Ⅱ第3問(配点 50 点)
B 社社長は 2019 年 11 月以降に顧客数が大幅に減少することを予想し、その分を補うために商店街の他業種との協業を模索している。
(設問 2 )
協業を通じて獲得した顧客層をリピートにつなげるために、初回来店時に店内での接客を通じてどのような提案をすべきか。価格プロモーション以外の提案について、理由と併せて 100 字以内で助言せよ。
→「初回来店時」の「店内での接客を通じた」提案が期待されていますが、設問1の協業に引きずられて予約会を活用した解答や、写真共有アプリを活用した解答が多くみられました。
慌てずに設問条件をメモしておくことで対処可能でした。
事例Ⅲ第3問(配点40点)
X社から求められている新規受託生産の実現に向けたC社の対応について、以下の設問に答えよ。
(設問1)
C社社長の新工場計画についての方針に基づいて、生産性を高める量産加工のための新工場の在り方について120字以内で述べよ。
→「在り方」という要求に戸惑ってしまった受験生も多かったと思います。
新工場の理想的な状態(=実現可能性の検証程度が低い)という意図で使用した表現であると考えられますが、設問要求を「在り方≒課題」と置き換えることができればいつも通りの処理ができます。
事例Ⅳ第2問(配点 25 点)
D 社のセグメント情報(当期実績)は以下のとおりである。(設問2)
当期実績を前提とした全社的な損益分岐点売上高を(a)欄に計算せよ。なお、(設問1)の解答を利用して経常利益段階の損益分岐点売上高を計算し、百万円未満を四捨五入すること。また、このような損益分岐点分析の結果を利益計画の資料として使うことには、重大な問題がある。その問題について(b)欄に 30 字以内で説明せよ。
→「設問1の解答を利用して」という条件を飛ばして計算した受験生が一定数いました。
また、「このような損益分岐点分析」が、(設問2)で求めた計算結果のことなのか、事業部ごとの費用構造の違いを考慮することなのかの解釈が難しい問題です。
30字という字数制約もあり、複数回答が困難でリスクの高い問題と言えます。
事例ごとに1問ずつ紹介しましたが、事例ごとに複数問、解釈が難しい問題が出題されています。
このため、これまでと異なる要求=これまでとは試験傾向が変わったと解釈して、繰り返し鍛えてきた理論・知識を十分に発揮できなかった方が多かったのではないかと思います。
詳しくは企業診断12月号に寄稿している今年度の2次筆記試験の総評をお読みください。
また12月27日に発売される企業診断1月号では、昨年に引き続いて特集を担当させていただいております。
今年度の2次試験の個別問題の設問解釈を詳細な解説と令和2年度の対策について書いていますので、年末年始の時間があるときにお読み下さい。
今回の試験から明らかになったことは、「期待される応用能力の本質は変わらない」という事実です。
中小企業支援に求められる理論は普遍的なものがほとんどです。
平成30年度のチーム理論や平成24年度のコーズリレーティッドマーケティングなど、比較的新しい理論が登場することもありますが、その変化は漸進的なものです。
今年度では事例Ⅲで後工程引取方式の理論が求められましたが、理論自体は新しいものではありません(標準ロットサイズなどが想定できなくても対応可能です)。
コア資源を活かした事業展開、組織慣性、市場からの学習、組織文化の変革、組織活性化、機能別組織の逆機能、SWOT分析、市場細分化理論、協業と連携、サービスの無形性対応、垂直統合、生産管理と生産現場。
すべて平成13年度試験以降、繰り返し出題されている理論です。これらの普遍的な理論を「発揮しにくくする」設問設計から、試行錯誤しながら作問する出題者の姿が浮かんできます。
問われる本質が変わらないという事実は重要です。
強化すべきは「設問解釈力の強化」であり「与件文の読解力」ではありません。
つまり、これまで積み上げてきた努力を無駄にすることなく、上記能力を強化することで令和2年度試験でしっかりと実力を発揮することができるということです。
昨日にアップされた記事で、今年のEBA合格者からいただいたメールを紹介しました。
Sさん「当日はしつこい設問解釈でなんとか乗り切れました」
Yさん「当日は、変化球とも思える設問にも引っ張られることなく、江口先生に教えて頂いたことを解答に置いてくることができました」
お二人とも、設問のわかりにくさを理解したうえで、それでも丁寧に設問解釈しようと踏ん張ったことが窺えます。
これがこれまでの努力を発揮できた要因だったと思います。
今年の試験で惜しくも不合格となってしまった方は、いまこの時点で来年度のことを考える気持ちにはなれないと思います。
それは努力を重ねてきた当然の心境であり、ご自身を無理やり鼓舞すべきではありません。
虚しさや悔しさは、時間をかけなければ癒えないものだと思います。
しかし、時間が経って、またこの試験に挑戦したいという気持ちが戻ったら、その時にこのブログを読んでもらえたらうれしいです。
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