令和元年度2次試験の出題の趣旨の考察(事例Ⅳ)

えぐちです。

さいごは事例Ⅳの出題の趣旨を考察します。

第1問(配点25点)

(設問1)

D社の前期および当期の連結財務諸表を用いて比率分析を行い、前期と比較した場合のD社の財務指標のうち、①悪化していると思われるものを2つ、②改善していると思われるものを1つ取り上げ、それぞれについて、名称を⒜欄に、当期の連結財務諸表をもとに計算した財務指標の値を⒝欄に記入せよ。なお、⒝欄の値 については、小数点第3位を四捨五入し、カッコ内に単位を明記すること。

【EBA解答例】

①棚卸資産回転率    3.13(回)
 売上高営業利益率  0.98(%)
②有形固定資産回転率 1.64(回)

【出題の趣旨】

連結財務諸表を利用して、診断及び助言の基礎となる財務比率を算出する能力を問う問題である。

追加的な情報はありませんでした。

(設問2)

D社の当期の財政状態および経営成績について、前期と比較した場合の特徴を 50字以内で述べよ。

【EBA解答例】

不動産賃貸の効率性が改善したが、分譲住宅の販売不振で在庫効率が悪化し、建材価格高騰で収益性が悪化した。

【出題の趣旨】

連結財務諸表に基づいた財務比率を基礎に、財務的な特徴及びその変化について分析し説明する能力を問う問題である。

設問は「財政状態および経営成績について」とありましたが、出題の趣旨では「財務比率」と明記されていることから、財務諸表の数値ではなく財務比率をベースに評価することが期待されていたことがわかります。

この解釈は例年変わりません。

第2問(配点25点)

(設問1)

事業部および全社(連結ベース)レベルの変動費率を計算せよ。なお、%表示で小数点第3位を四捨五入すること。

【EBA解答例】

建材    95.33(%)
マーケット 69.39(%)
不動産   3.52(%)
全社    89.09(%)

【出題の趣旨】

短期利益計画を検討するに当たって、基礎資料となる変動費率を事業部レベル及び全社レベルで算定する能力を問う問題である。

出題の趣旨と計算結果から、全社レベルの変動費率と事業部レベルの変動費率を比較するための基礎資料を作成させた意図が読み取れます。

(設問2)

当期実績を前提とした全社的な損益分岐点売上高を⒜欄に計算せよ。なお、(設問1)の解答を利用して経常利益段階の損益分岐点売上高を計算し、百万円未満を四捨五入すること。 また、このような損益分岐点分析の結果を利益計画の資料として使うことには、 重大な問題がある。その問題について⒝欄に30字以内で説明せよ。

【EBA解答例(改変後)】※計算は割愛

事業部ごとの費用構造が異なるため、適切な事業評価ができない。

【EBA解答例(改変前)】※計算は割愛

事業部ごとの収益性を評価できないため不採算事業が特定できない。

【出題の趣旨】

短期利益計画の策定に当たって必要となる損益分岐点売上高を算出する能力を問うとともに、その限界について理解していることを確認する問題である。

本問の趣旨からは読み取れませんが、(設問1)の趣旨から、費用構造が異なる事業部同士を損益分岐点分析により評価することに限界があることを指摘させる意図があったと解釈できます。

また(設問3)でより明示的に本問の意図が記載されています。

このため、EBA解答例を改変しています。

(設問3)

次期に目標としている全社的な経常利益は250百万円である。不動産事業部の損益は不変で、マーケット事業部の売上高が10%増加し、建材事業部の売上高が不変であることが見込まれている。この場合、建材事業部の変動費率が何%であれば、目標利益が達成できるか、⒜欄に答えよ。⒝欄には計算過程を示すこと。なお、(設問1)の解答を利用し、最終的な解答において%表示で小数点第3位を四捨五入すること。

【EBA解答例】割愛

【出題の趣旨】

事業部ごとに異なっている原価構造を理解することによって、実態に即した目標を設定する能力を問う問題である。

「事業部ごとに異なっている原価構造」という具体的な表現から、設問2の解答が明らかになりました。

第3問(配点30点)

(設問1)

各期のキャッシュフローを計算せよ。

【EBA解答例】割愛

【出題の趣旨】

新規プロジェクトの損益予測情報を利用して、プロジェクトの将来キャッシュフローを算定する能力を問う問題である。

特に有益な情報はありません。

(設問2)

当該プロジェクトについて、(a)回収期間と(b)正味現在価値を計算せよ。なお、資本コストは 5 %であり、利子率 5 %のときの現価係数は以下のとおりである。解答は小数点第 3 位を四捨五入すること。

【EBA解答例】割愛

【出題の趣旨】

プロジェクトの安全性・収益性評価のために、予測情報に基づいて回収期間及び正味現在価値を算定する能力を問う問題である。

回収期間法→安全性、正味現在価値法→収益性の評価基準であることが明らかになりました。

(設問3)

<資料>記載の機械設備に替えて、高性能な機械設備の導入により原材料費および労務費が削減されることによって新製品の収益性を向上させることができる。高性能な機械設備の取得原価は 30 百万円であり、定額法によって減価償却する(耐用年数 5 年、残存価値なし)。このとき、これによって原材料費と労務費の合計が何%削減される場合に、高性能の機械設備の導入が<資料>記載の機械設備より有利になるか、(a)欄に答えよ。(b)欄には計算過程を示すこと。なお、資本コストは5 %であり、利子率 5 %のときの現価係数は(設問 2 )記載のとおりである。解答は、%表示で小数点第 3 位を四捨五入すること。

【EBA解答例】割愛

【出題の趣旨】

代替的プロジェクトが存在する場合について、差額キャッシュフローを利用することによって合理的にプロジェクトの選択を行う能力を問う問題である。

差額キャッシュフローにより計算させる問題であることが明らかになりました。

なお、本問を捨て問としても容易にA評価を取ることが可能です(再現答案による本問の正答率は2%ですが、A評価は全体の40%でした)。

第4問(配点20点)

(設問1)

D 社は建材事業部の配送業務を分離し連結子会社としている。その(a)メリットと(b)デメリットを、それぞれ 30 字以内で説明せよ。

【EBA解答例】

(a)メリット

配送業務単独の収益性を評価でき、事業再編がしやすい。

(b)デメリット

別会社として事業運営することでコストが重複する。

【出題の趣旨】

子会社化された配送業務について助言するために必要となる、子会社化のメリットとデメリットに関する理解を確認する問題である。

特に有益な情報は得られませんでした。解答には分社化することによるオーバヘッドコストや部門の重複コストの指摘が期待されていたと考えられます。

(設問2)

建材事業部では、EDIの導入を検討している。どのような財務的効果が期待できるか。60 字以内で説明せよ。

【EBA解答例】

受発注業務の効率化で人件費が削減でき、取引先との在庫情報共有により在庫が削減され、在庫関連費用が削減して収益性が改善する。

【出題の趣旨】

EDI(電子データ交換)の導入を検討するに当たって、その財務的な効果について助言する能力を問う問題である。

追加的な情報はありませんでした。

第1問の経営分析で指摘された問題(収益性、効率性)の改善効果が期待されていたと考えられます。

以上、全4事例の出題の趣旨を考察してきました。

2次筆記試験は解答が発表されない試験ですが、出題の趣旨を考察することで出題者が求める理論の応用を、ある程度明らかにすることができます。

来年度受験される方は、ぜひご自身で設問と出題の趣旨を直接比較してみてください。



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