昨日に引き続き、今年の事例企業シリーズです。
前回の内容はこちら。
B社は本州から海を隔てたX島に位置する農業生産法人で、島内でハーブの無農薬栽培、ハーブ乾燥粉末の一次加工・出荷を行っています。
B社社長は、この島で代々農業を営む家庭に育ちましたが、島は、若年層の人口流出や雇用機会不足、人口の高齢化による耕作放棄地の問題、農家所得の減少などが深刻化し、地域の活力が低下して久しいです。
社長はこの窮状を何とかしたい、自分が生まれ育った島を活性化したいと強い思いを抱いていました。
そして、島に自生していたハーブYの健康・長寿の効能に目を付け、このハーブの本格的な栽培に取り組み、島の新たな産業として発展させようと考えました。
ハーブの栽培方法の確立に取り組み、無農薬で高品質のハーブが同じ耕作地で年に4~5回収穫できる効率的な栽培方法を開発しました。
そして今から10年ほど前に、大手製薬メーカーであるS堂もといZ社との取引開始をきっかけに、会社を設立することになりました。
島内に工場を建設し、栽培したハーブを新鮮なうちに乾燥粉末にすることで輸送コストを削減できるようになったことで、Z社との取引が開始しました。
Z社は、大手製薬メーカーの資本力を活かしたマーケティング戦略で、ハーブYを使用したドリンクやサプリメントを全国販売しました。
島の大自然とハーブからもたらされる美を意識させるパッケージを採用するブランディングにより、主として30~40歳代の女性層の支持を獲得しました。
しかし、この製品も販売から10年が経過し、売れ行きが鈍ってきました。
B社とZ社とのハーブの取引量が徐々に奇妙に減少する中で、Z社担当者から先日、ブランド刷新のため、あと2~3年でこの製品を製造中止する可能性が高いことを告げられました。
この宣告は社長にとって大きな衝撃となりましたが、B社の経営方針を考え直すきっかけにもなりました。
B社長がハーブの加工を始めた理由は、困窮するこのX島を活性化することでした。
Z社は、この島のハーブの認知を拡げることに貢献してくれましたが、今回の、ブランド刷新を理由に販売を中止するという決定は、社長のハーブへの強い思いを介さない経営判断と感じました。
社長の思いに共感し、理解してくれていれば、仮にブランドを変えても、ハーブYは引き続き原材料として使用してもらえると思ったからです。
この経験から、社長は、このX島を盛り上げるためには、これまでとは異なるブランド戦略が必要だと感じました。
B社社長は、ハーブYの本来の効能でもある、「健康・長寿」や高品質の価値を共有してくれる、できれば大手ではなく中小メーカーに販売したいと考えました。
幸いにも、Z社のプロモーションのおかげで、X島のハーブYは、ヘルスケアに関心の高い人からの認知を得ています。
市場がますます拡大しているとはいえ、競争が激化するヘルスケア市場にあっても、X島のハーブYの認知度は、取引先メーカーにとっても製品差別化の武器になるはずです。B社社長は、X原材料の素材の価値と認知度を訴求する地域ブランド戦略を通じて、X島を盛り上げていこうと考えました。
ハーブYとは別に、B社社長は、安眠効果をもつハーブの製品化にも取り組みました。
すでに複数のヘルスケアメーカーからサプリメントの原材料として使用したいとの引き合いが来ていますが、取引量はまだまだ少量で、Z社との取引量には到底及びません。
そこで社長は、このハーブを試しに、安眠効果のあるハーブを原材料とした「眠る前に飲むハーブティー」というコンセプトの製品をOEM企業に生産委託し、自社オンラインサイトで販売してみたところ、20歳代後半~50歳代の大都市圏在住の女性層から注文が来るようになりました。
知り合いの中小企業診断士2名に、この取り組みについて話したところ、1人は「それは安眠効果という新たなニーズをもつ市場に既存のドリンク製品を投入しているので、市場開拓戦略にあたるね」と評価されました。
どうやら、アンゾフとかいう経営学者が定義しているようです。
またもう1人からは、「これまではアンチエイジング製品で、今回は安眠効果の製品だね。市場は変わらずヘルスケア市場なので、彼の言う市場開拓は誤りで、製品開発戦略だよ」と言われました。
どちらが正しいのかわかりませんが、どっちでもいい気がしています。
B社社長には、かつて自社ブランド製品の開発に失敗した経験があります。
ハーブを乾麺や焼き菓子に練りこんだ試作品をOEM企業に生産委託し、大都市で開催される離島フェアなどに出展して販売を行ったのですが、大コケしました。
ハーブYの知名度が大消費地であまりに低かったことが原因だったと考えています。
今回は、少量ではあるものの、自社ブランド製品を購入してくれる顧客が現れました。
離島フェアからオンラインサイトにチャネルを変えたこともそうですが、ヘルスケアに関心の高い人から認知を得ていたことが顧客獲得ができた理由ではないかと思います。
B社社長は、顧客との接点を活かして、顧客を自社ブランド製品開発に巻き込みたいと考えました。
そこで、安眠効果以外のハーブのさまざまな効能や、お茶や調味料、健康食品などのほか、アロマオイルや香水などの原材料にもなる多様な用途がある情報を発信して、顧客の関心事を引き出そうと試みました。
このようなコミュニケーション施策を講じることで、顧客のB社製品への関与を高めることが狙いでした。
またB社は、オンラインで製品を購入してくれた顧客を対象に、X島宿泊訪問ツアーを企画することにしました。
ツアー参加者には訪問を機にB社とX島のファンになってほしいと願っています。
B社は、体験型のツアーを企画することにしました。
1つ目はハーブの収穫体験です。
ハーブYは年に4~5回も収穫できるため、1年を通して収穫体験ができます。
X等の島民は、これまでのB社長の取り組みを評価し、B社のことを誇りに思いつつありますので、X島を盛り上げたいとするB社長の取り組みに協力してくれるはずです。
耕作放棄地をハーブ園として活用できれば、いつか、この島に滞在して、ハーブ栽培に取り組んでもらえれば、そんな思いもあります。
一面に広がるハーブ畑は、生命力あふれる緑の葉が海から吹く風に揺れ、青い空と美しいコントラストを生み出しています。
この景色を一目みれば、きっとB社の、この島のファンになってくれると期待しています。
2つ目は、島のイベントに合わせたハーブの食体験です。
現在でも祝いの膳や島のイベント時に必ず食べる風習が残り、とくに高齢者は普段からおひたしや酢みそあえにして食べています。
島は車で2時間もあれば一周できる広さで、比較的温暖な気候で、マリンスポーツや釣りが1年の長い期間楽しめます。
この島で食体験や、スポーツなどを島民とともに体験することで、きっとX島のファンになってもらえると思います。
それがX島の雇用増加や島の活性化に繋がることを願っています。
B社はこのように、Z社との取引経験から学び、ハーブを地域ブランドとして育成することを目指し、今日もX島の活性化に取り組んでいます。
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