【2次】再現答案の採点結果を踏まえた今年の2次筆記試験の考察

えぐちです。

再現答案の採点が完了したので本日中に全員分のFBをメールでお送りします。
採点を終えての総評を書きたいと思います。カッコ内が平均点です。

事例Ⅳ(36.4点)
前回も書きましたが4事例の平均点は事例Ⅳが最も低かったです。
今年の事例Ⅳはほとんどの計算問題に計算過程を設けたり、記述問題を多く出題したりと、これまでの事例Ⅳから変化しました。
何よりも、与件本文を解釈させる記述問題(第4問)を出題したことは非常に大きな変化です。
事例Ⅳは計算能力を評価する科目ではないことを強調した良問だったと思います。
今後の記述問題対策として、事例Ⅰ~Ⅲと同様の処理手順を意識することが必要になります。

今回の事例Ⅳの傾向変化を読み誤ると、会計資格の強化という誤った方向に進む人が出てくると思いますが、たとえ簿記1級を取得したとしても、今年の得点が大きく伸びることはありません。
鍛えるべく筋肉を間違えるとムダな1年を過ごすことにもなりますので十分注意してください。

事例Ⅰ(46.8点)
最も平均点が高い科目でした。
今年は題意を把握しづらい設問が少なかったことと、与件文を設問に振り分ける際にそれほど苦労しなかったことが原因だと思います。
第2問(設問1と設問2)の平均点が特に高いですが、与件対応付けが容易かつ編集ストレスも相対的に少ないことが原因だと思います。

平均点が最も低い設問は第3問の組織改編の問題です。
理由は、機能別組織→機能別組織という、同じ組織構造での改編であることから与件解釈が難しかったためです。
本問をチーム理論で解答できる人はほとんどいませんでしたが、
今年はまったく差がつかないため総得点への影響は軽微です。

しかし、チーム理論は1次試験でも最近出題頻度が高い理論でもあり、今後も出題されることを想定して備える必要があります。
また、本問にも機能別組織のデメリット解消(経営者育成)が問われており、その点では組織構造の基本的な問題も出題されることも指摘しておきます。
全体として、設問解釈や与件解釈の難易度は高くないですが、問題そのものの深さは増してます。

たとえば第4問の「チャレンジ精神や独創性を維持」の問題では、「維持するってことは現状はチャレンジ精神や独創性があるので現在の評価制度は機能している」と捉えがちですが、もう1歩踏み込んで、「維持する必要性が増した理由として、外部環境やシステムに変化があったかもしれない」ことを想定する能力が求められています。

この想定を前提として、改編後のA社の組織を比較することで今後のA社の課題が見えてくるという仕掛けになっています。
この作問構成はこれまでになく画期的でした。
今後の演習作問に反映していきたいと思います。

事例Ⅱ(39.2点)
2番目に平均点の低い科目でした。
一昨年以前の5問構成から1問少ない4問構成は昨年同様で、「しっかり与件解釈しなさい」という出題者の意思がよく表れた良問です。
第1問の3Cを現状分析問題として、第2問でそれを補完させています。
第1問を外部環境分析、第2問を内部資源分析と捉えると全問がすっきりします。
各設問の中で最も平均点が高い設問はこの第1問と第2問でした。

その理由は、この2問は他の2問と比較して解答構成が単純だからです。
3C分析は戸惑う人も多かったようですが、競合資源は少なく、またB社の立地の優位性は気づきやすかったことから、多くの受験生が指摘できていました。
第2問も、ターゲットの指摘は容易であること、また、「自社資源」の訴求は列挙タイプの問題なので、複数の自社資源を指摘すれば加点機会が高まる問題です。
出題者も第2問を取らせる問題と位置付けていたと考えられます。

一方で、第3問・第4問は低得点でした。
第3問は「おもてなし」「従業員と宿泊客との交流」という設問条件を外した解答が意外と多く、また中には「SNS上での交流」と解釈した解答も1割ほどいるなど、設問解釈時点で高得点機会を逸した方が多数いました。
また従業員の語学力を活用した解答が非常に少なかったことも意外でした。
この設問の解答は、出題者側も想定外と感じていると思います。
第3問は「従業員」活用の問題ですが、資源制約上、B社の従業員は家族3名、パート4名ですから、できるおもてなしに限界があります。
B社が夕食を提供していない理由と同様で、資源制約上現実的ではないこと(夜通しの祭りに従業員がアテンドするなど)を書いても加点されません。

そして第4問が最も低得点でした。
その理由は、第3問と同様、設問解釈が不十分だったためです。
この問題は「夜の活気を取り込んで」「B社の宿泊需要を生み出す」ことが目的の問題です。
どこにも外部連携を意図した記述はありません。
にもかかわらず、多くの解答は外部資源活用の構成となっていました。

事例Ⅱでは地域との共生を意図する問題が出題されていますが、条件にそれを示されていないのに「地域連携」を前提とした場合、解答は「なんでもあり」になります。
平成29年度では第3問に「中小建築業と連携し」と明示され、与件には「地域の繁栄が必要だ」と書かれています(第4問に対応)。
平成25年度は「X市は近年、苺狩りや筍堀りなどによる観光客誘致に力を入れ始めている」と明示しています(第4問で連携)。
第3問と同様、B社の資源制約や設問条件を逸脱した解答構成は、出題者の意図を大きく外して事故を起こす原因になる為注意が必要です。
この問題はB社単独資源で「事前予約のない宿泊客」を増加させられる問題です。
そのために取り込むべく夜の活気は「夜通し」の祭りなどではなく、「通年で」「夜間ライトアップ」された名刹に訪れる「増加する夜間の滞在人口」になります。
この問題でB社の立地上の優位性が発揮される構成になっています。
今年は第4問で差がついていません。

しかし、平成29年度の事例Ⅱの作問傾向の変化は平成30年度にも継承されたことから、資源制約を意識した解答作成を鍛えないと、この傾向変化についていくことは難しいでしょう。

※2018年12月25日追記「出題の趣旨」を踏まえた補足
2018年12月25日に公表された出題の趣旨では第4問の出題の趣旨は以下のように書かれていました。
「第4問(配点25点) X市の状況を踏まえて、X市と連携しながらB社への宿泊需要を高める施策について、助言する能力を問う問題である。」
上記の通り、「X市と連携しながら」と明示されていましたので、趣旨の通りで、出題者は「地域連携」を期待していたことが明らかになりました。
この出題の趣旨により、連携、つまり活用できる外部資源がなにかはより一層特定しやすくなりました。
それは「夜間ライトアップされた名刹」の一点です。
B社として、このX市の成功事例を参考に、自社資源である「苔むした庭園」を夜間ライトアップすることで、
B社の資源がX市市街地の魅力度向上に貢献し、またB社としても、夜の活気にあやかることで 事前予約のない宿泊需要を喚起する機会が得られる、という構成になります。

つまり、自社資源が効果的に活用できるような「X市との連携」が題意であり、事例Ⅱの解答構成に資源制約が重視されているという見解は変わりません。
したがいまして、「外部資源なんでもあり」の解答は加点されないと考えています。

参考までにEBA解答例を下記にあげます。

【EBA解答例(2018年11月4日分析会資料)】
名刹が点在する地域から徒歩圏内である立地を活かし、和の風情がある苔むした庭園をライトアップして夜間鑑賞できるようにし、日本の朝を感じられるこだわりの器を使った朝食を訴求し、事前予約のない客の宿泊を促す。

事例Ⅲ(平均点41.2点)
事例Ⅰに次いで平均点の高い科目になりました。

理由として、平成29年度と比べても非常に設問解釈がしやすい、具体的には「生産管理/生産現場」の区別がしやすい問題だったことが挙げられます。
第3問の「生産計画上」第4問の「生産管理」など、より詳細な情報が事前に与えられたため、与件解釈時点での混乱が昨年度よりは少なかったと思われます。
生産管理/生産現場の区別についてはこちらのブログを参照してください。
EBAでは上記「生産管理/生産現場(当初の表現は生産性)」は理論講義の直後から最後の講義まで言い続けましたので、さすがに事故を起こした人は非常に少なかったです。

また第2問のマン・マシン・チャートも直前期の演習問題で図のまんま出題したため多くの方が得点できています。
また第1問も例年よりは対応根拠が特定しやすく、第5問も設問内に「資源」の指摘をしてくれたことから対応しやすい問題だったため、しっかり得点を積み上げられる問題だったと思います。
事例Ⅲは生産面の問題も経営戦略の問題も進化しています。

生産面では、試験委員の木内先生がご自身の著書で主張される「生産現場と生産管理の連動性」を具現化した良問となっています。
C社の生産現場を一段高い視座で考えることができると、事例Ⅲの難易度を下げることができます。
また経営戦略の問題については、企業経営理論の1次理論の保有を前提とした問題が出題されました。
この傾向変化は特徴的で、今後の対策が必要です。
全体を通して、今年の2次筆記試験も非常によく練られた良問でした。
今年の2次筆記試験の詳細な考察は12月28日に発売される「企業診断1月号」の特集でていねいに説明しますのでぜひ読んでください。