今年の事例Ⅰを過去の問題と比較する(その1)

えぐちです。
2次試験が終わり早くも1週間が経過しました。
この週末を利用して再現答案を作成される方も多いと思います。
再現答案は今年の事例問題を解いて自分で考えて解答した具体的な成果物です。
特に口述試験の準備において、自分の解釈や理論の誤りを修正する際に役に立ちますのでぜひ作成しましょう。


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分析解説会に参加される方も、そうでない方も受け付けていますので、ぜひ提出してください。
なお返却予定日は11月18日(月)となっています。




今日は、今年の事例Ⅰについて書きたいと思います。(再現答案をこれから作成する人は、作成後に読みましょう)


今年の事例Ⅰも第1問はこれまでのA社の経営戦略を記述させる問題でした。

第1問(配点20点)
 A社長がトップに就任する以前のA社は、苦境を打破するために、自社製品のメンテナンスの事業化に取り組んできた。それが結果的にビジネスとして成功しなかった最大の理由は何か。100字以内で答えよ。

 

①多角化戦略としてのA社のメンテナンス事業の解釈

 A社が取り組んだメンテナンス事業を「多角化戦略」の視点で考えてみましょう。

1.関連多角化/無関連多角化

 A社は中小メーカーであり、新規事業は「自社製品」のメンテナンス事業です。つまり、A社は自社が製造した農業用機械や産業機械装置のメンテナンス事業に参入したことになります。これは「関連多角化」になります。関連多角化は、既存事業において培った経営資源が生かせるという点で、無関連多角化よりも低リスクです。にもかかわらず、A社はこの事業に失敗しています。なぜでしょうか。

 ここで「A社は無関連多角化によりリスクを分散できなかったからだ」と解釈すると事故になります。中小メーカーであるA社が、経営危機において無関連多角化を行えば、強みを活かせない市場で経営資源が分散して致命的な結果をもたらすでしょう。A社の失敗要因は、「無関連多角化を選択しなかったから」ではありません。



2.コア資源を多重利用した多角化

 中小企業であるA社にとって有効な新規事業開拓は、たんなる「関連多角化」では足りません。これを証明する問題は平成28年の事例Ⅰで出題されています。この年では、A社はコア資源を多重利用できる事業分野(美術印刷事業)では成長していますが、たんなる関連多角化を行った事業では成果を上げられず、経営資源の分散によりリストラの必要性に迫られています。

まず着手したのは、多角化した事業に分散していた経営資源を主力製品であるアルバムに集中し強化することであった。



つまり、A社にとって有効な多角化は①自社のコア資源が活用できること、②事業展開により経営資源の分散を招かないことが条件になります。特にメーカーにとってのコア・テクノロジーは情報的資源として多重利用できるため、中小企業にとって重要です。これが本問においてA社の自社製品のメンテナンス事業が成功しなかった理由の1つとなります。



3.メンテナンス事業のノウハウ


 A社が取り組んだメンテナンス事業とは、自社製品の修理・保守を行うサービス事業です。メーカーであるA社にとって、これは異業種への進出になります。既存事業との関連性はあるものの、製品を開発・製造・販売するメーカーと、販売後の製品をメンテナンスするサービスでは、事業運営に必要な経営資源の質が異なります。つまりA社はサービス事業の経営ノウハウを保有していないため、この事業分野の経営資源が不足していると判断できます。



 平成27年の事例Ⅰでは、プラスチック製品メーカーであるA社が、多角化を行いスポーツ関連のサービス事業に参入してますが、A社全体に占める売上を拡大できずにいました。

グループ全体でみた売上構成比は、プラスチック製容器製造が60%、自動車部品製造が24%、健康ソリューション事業が16%である。ここ5年でみると、売上構成比はほとんど変わらず、業績もほぼ横ばいで推移しているが、決して高い利益を上げているとはいえない。



なぜA社のサービス事業の売上が拡大しなかったのでしょうか。その答えは、第5問の出題の趣旨に書かれています。

プラスチック製造を主力事業としてきたA社が、新規事業としてスポーツ関連のサービス事業をさらに拡大する際に、どのような点に留意すべきかについて、中小企業診断士としての助言能力を問う問題である。

この出題の趣旨を正しく解釈できないと事例Ⅰで出題者の意図を汲んだ解答を想定することはできません。注目すべき表現は「プラスチック製造を主力事業としてきたA社」です。つまり、A社は製造業であり、スポーツ関連(これも関連多角化ですね)のサービス事業を拡大するには、経営ノウハウが不足していたと言いたいわけです。

この解釈を「飛躍しすぎだ」と感じた方は、下記の過去問をご覧ください。平成27年第5問です。

平成27年第5問(配点20点)
 A社の健康ソリューション事業では、スポーツ関連製品の製造・販売だけではなく、体力測定診断プログラムや認知症予防ツールなどのサービス事業も手がけている。そうしたサービス事業をさらに拡大させていくうえで、どのような点に留意して組織文化の変革や人材育成を進めていくべきか。中小企業診断士として、100字以内で助言せよ。




上記から読み取れることは、伸び悩んでいるサービス事業の売上を拡大させるためには、

①既存の組織体制ではダメであること

②既存の人材育成ではダメであること

の2つです。つまり現状のA社は組織が非活性であり、新たな事業を推進するための組織慣性が働いていることと、内部人材での人材育成ではサービス事業の拡大は困難であるということです。



これにより、「製造業であるA社がサービス事業の売上を拡大する」ためには、①首脳陣の交代による組織文化の変革、②サービス事業の経験者を活用した人材育成(によるサービスノウハウの取得)が有効となります。



ここまで読んだ方は、「なんか今年のA社と似ているな」と感じたと思います。今年のA社も、経営危機に直面した際に「首脳陣の交代」をしています。これによりA社は組織文化の変革に成功し、大胆なリストラも合わせて組織を活性化させています。



すこし話が横道に逸れてしまいましたが、これでA社のメンテナンス事業が成功しなかった理由が理解できたと思います。



ただし、解答作成する際は設問レイヤーに注意する必要があります。第2問は「企業風土」を聞いていますので、「組織レイヤー」の問題となります。このため、第1問は「経営戦略レイヤー」の解答が期待されている可能性が高くなります。上記「組織文化(慣性)」は第1問ではなく、第2問に対応させる判断が必要です。



今日はここまで。
続きの②は明日正午に更新予定です。

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