えぐちです。
今日は今年の事例Ⅲについて書きます。
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今年のA社を考える
今年のB社を考える
過去分はこちら
<平成30年度試験版>
今年のA社を考える
▶https://www.ebatokyo.com/news/1970
今年のB社を考える
▶https://www.ebatokyo.com/news/1968
今年のC社を考える
▶https://www.ebatokyo.com/news/1390
今年のD社を考える
▶https://www.ebatokyo.com/news/1385
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C社は金属熱処理および機械加工を営む企業です。
C社は熱処理専業企業として素材や形状による温度管理などの特殊な技術を蓄積していること、および熱処理部門に加えて前工程となる機械加工部門とそのための設計部門を保有する垂直統合度の高い生産体制を保有している点が強みです。
C社は約10年前、所属する工業会が開催した商談会で、金属熱処理業を探していた自動車部品メーカーX社との出会いがあり、自動車部品の熱処理を始めました。
その後X社の増産計画により、自動車部品専用の熱処理工程を増設し、それによってC社売上高に占めるX社の割合は約20%までになっています。
さらに現在、X社の内外作区分の見直しによって、熱処理加工に加え、前加工である機械加工工程をC社に移管する計画が持ち上がっています。
自動車部品メーカーX社からの機械加工の受託生産に応じる場合、これまでの機械加工部門の生産量が2倍になることで稼働率が向上し、量産加工による生産性向上、X社の支援により外注かんばんのシステム構築ができるなど、生産面の効果があります。
一方で、X社の後工程引取方式に組み込まれることで、X社の生産状況にC社内の生産が依存するため、設備稼働率が変動するといったリスクがあります。
C社はX社から求められている新規受託生産の実現に向け、生産性を高める量産加工のための新工場の在り方について、工程計画を検討しました。
まず、C社は以下のような工程レイアウト設計と工程設計の検討をしました。
X社からの受注は機械加工から熱処理加工まで連続する工程の量産加工であり、生産性を高めるためには工程間運搬のムダをなくすレイアウトが必要となります。
現在、C社内の工場は機械加工部門と熱処理加工部門が別の建屋に独立しています。このままでは工程間運搬のムダで生産性が大きく損なわれるため、両工程は同じ建屋に施設する必要があります。
C社は現在すでに自動車部品専用の熱処理工程を保有していますので、ここに前工程となる機械加工工程を施設することで運搬のムダを解消することが可能です。
また、新規受託生産の実現には新たな機械設備の導入が必要となります。
X社から受託する金属部品は、寸法や形状が異なる10種類の部品で、加工工程は部品によって異なり、それぞれ5工程ほどの機械加工となります。
C社としては、X社の受託生産部品だけの生産をする専用機化・専用ライン化にするのではなく、将来的にはX社向け自動車部品以外の量産の機械加工ができる新工場にしたいと考えており、製品別レイアウトを採用することは適しません。
また、10種類の部品の5工程の機械加工はいずれも加工工程が異なるため、加工工程が類似する部品をグループ化した専用ラインを施設するGT的レイアウトも向きません。
仮にGT的レイアウトを採用した場合、X社向け製品専用のセルを構築することになるため、X社向け以外の量産の機械加工を生産するというC社の今後の戦略に合致しないばかりか、グループごとに新たな設備を導入することになるため、重複する設備投資の負担が問題になります。
また今回の計画は、X社の後工程引取方式にC社が組み込まれることになるため、X社の生産状況にC社内の生産稼働が左右されることになり、X社向けの生産グループを施設することはリスクを高めることになります。
このため、C社は現状の機能別レイアウトを維持したまま、工程間の仕掛品の運搬距離や頻度を考慮し、近接性を重視した機械配置にすることにしました。
そのうえでC社は、一人当たり生産性を極限まで高めるよう、次のような作業設計を検討しました。
C社の生産現場は、機械加工工程も熱処理工程も、経験豊富な作業者の個人技能に依存しています。
このため、増産体制を構築するにあたっては、作業員の確保と育成が欠かせません。
C社は近年の人材採用難に対応して、新工場要員の採用は最小限にとどめ、作業方法の教育を実施し、早期の工場稼働を目指す計画としています。
このため、現状のような個人技能に依拠した生産現場の改善は急務となります。
C社はこの課題に対して、作業標準化を進めたうえで作業員の確保・育成を進めることを検討しています。今後は複数工程ある部品を量産することになるため、工程の流れ化を志向することになります。
そのため、生産統制において工程間の作業負荷を調整できるようにしておく必要があります。
C社は作業員の育成後は、複数工程を担当できる多工程持ちを推進することを検討しています。
上記の工程計画を検討したうえで、C社は、X社とC社間で外注かんばんを使った後工程引取方式の構築と運用を進めるための生産管理について検討しました。
まず生産計画について以下のように検討しました。
C社はこれまでは受注ロット生産体制をとっていました。
また、これまでは機械加工部と熱処理部は別々に生産計画を作成し、機械加工を伴う受注については熱処理加工との工程順や日程などを考慮して調整していました。
熱処理加工を主要加工としてきたこれまでのC社にとってはこの計画方式が妥当でしたが、今後は両工程の量産加工が日常化することになるため、これまで通りに生産計画を別々に作成し、調整する体制を維持した場合、日常化する調整作業により生産現場が混乱することになります。
このため、今後は機械加工部と熱処理部の生産計画を統合し、月ごとの生産計画サイクルは、X社からの納期3日前の確定受注情報に合わせて短縮する必要があります。
また後工程引取方式を実現するには、小ロット生産を進めて生産リードタイムを短縮する必要があります。
C社の生産量はX社の生産計画により平準化することが見込まれるため、C社はこの生産方式に対応するために、X社の内示情報や外注かんばんに従って標準生産ロットサイズを設定する必要があります。
また、後工程引取方式では余分な仕掛品や材料部品を持たない生産体制が求められるため、日程計画の作成サイクルに合わせて材料発注サイクルも短縮することになります。
生産統制面においては、部品の欠品や納品遅れを防止するために厳格な納期管理を実施する必要があります。
さらに余力管理により工程間の負荷を調整することで、工程間在庫を削減して生産リードタイム短縮を図ります。
C社は、新工場が稼働した後の今後の戦略についても検討しました。
C社には熱処理専業企業として蓄積した素材や形状による温度管理などの特殊な技術があります。
また熱処理部門に加えて前工程となる機械加工部門とそのための設計部門を保有する垂直統合度の高い生産体制を保有している点が強みとなります。
これらの強みを活かして、C社はX社向け自動車部品以外の量産の機械加工を受注することを計画しています。
そのための具体的な施策として、まずC社は設計部門の強化を図りました。
現状の設計部は2名で担当しており、近年の人材採用難から設計要員の増員は困難であることが想定されます。
このためC社は、CAD/CAMなどのICT投資により設計業務の効率化に取り組みました。次にC社は、営業部門の強化を検討しました。
C社は所属する工業会が開催した商談会を介してX社からの新規受注に成功している経験があるため、今後は工業会との関係を強化し、商談会などを通じてX社以外の新規顧客開拓を図ることにしました。
以上が今年のC社です。
今年の事例Ⅲは、設問文や与件根拠をヒントに以下のようなC社の今後の課題を想定させる問題が複数問出題される難問となりました。
第3問(設問1)
機械加工工程と熱処理工程という前後工程の流れを重視した工場レイアウト設計
第3問(設問2)
X社の後工程引取方式に対応した小ロット生産による生産リードタイムの短縮
平成30年度のように、「過大な製品在庫」といった問題点が与件文に明記される問題と比較して、課題を想定させる問題は難易度が高くなります。
事例Ⅲでは毎年難易度が変動し、同様の課題想定系の問題は平成29年度にも出題されています。
令和2年度は「易化」する順番となりますが、「ジャストインタイムの生産体制(平成30年)」や「後工程引取方式(令和元年)」など、積極的に柔軟な生産体制の構築にチャレンジするC社から学び、私たちもこれらの問題に対応できるように進化していきたいですね。
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