えぐちです。
今日は昨年度の1次試験問題を題材に、実体経済のお話をしたいと思います。
下記は令和元年度1次試験、財務会計の第18問です。
令和元年第18問
金利に関する記述として、最も適切なものはどれか。
×ア 将来の利払い額が変動するリスクを考慮すると、固定金利での借り入れが常に有利である。
×イ 日本における短期金利の代表的なものとして、インターバンク市場で取引される公定歩合がある。
×ウ 名目金利とは、実質金利から物価上昇率(インフレ率)を控除した金利水準を指す。
〇エ 歴史的に長期金利と短期金利では、長期金利の方が高い傾向にあるが、金利水準の低下局面では逆のケースも観察されている。
診断士試験は理論の理解力を求める問題を中心に出題されますが、このように、実体経済を読むために必要な知識を問う問題も出題されます。
①名目金利と実質金利
名目金利=実質金利+物価上昇率となります。
つまり、実質金利=名目金利-物価上昇率です。
下図は1990年以降の名目金利と物価上昇率の推移を示したものです。
実質金利は図の青から赤を引いたものです。
1997年と2014年のインフレは消費税増税によるものです。
また2008年のインフレはリーマンショック後の原油価格高騰が原因です。
2016年以降、インフレ率は上昇傾向ですが、名目金利はゼロ水準のままであり、実質金利はマイナスで推移していることがわかります。
実質金利がマイナスということは、所得が増加しない限り、資産の実質価値は減価していくことになります。
2019年10月に消費税が増税されましたので、更なる物価上昇により実質金利のマイナス幅は拡大していると想定できます。
②順イールドと逆イールド
一般的に短期金利よりも長期金利の方が高くなります。
このため、国債の利回りは償還期間が長くなるほど利回りも高くなります。
下図は国債の償還期間と利回りの関係を図にしたものです。
確かに償還期間が長くなるほど金利も上昇しています。
これを順イールドと呼んでいます。
ところが、選択肢エにあるように、金利水準の低下局面において、この関係が逆転することがあります。
これを逆イールドと呼んでいます。
下図は平成3年4月24日のデータです。
平成3年といえばバブルが崩壊した年です。
10年物国債の金利を見ると、この時期が金利低下局面であることが確認できます。
そして、この時期の国債金利は、期間が短い方が高くなっており、逆イールドを示していることが確認できます。
長短金利の逆転現象は、市場崩壊のサインとしても知られています。
これについては、こちらのブログに詳しく書いていますので興味がある方はお読みください。
このブログでは、逆イールド発現後の景気後退までのタイムリミットが2年程度であるデータを紹介していますが、昨年8月に逆イールドが発現してわずか6カ月で景気後退が現実となりました。
中小企業診断士の学習では主に中小企業経営に必要な理論を学びますが、このように経済事象を読み取るために必要な知識も学びます。
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