今年の1次試験の難易度と令和3年度の経営法務対策④

今年の経営法務の解説、ラストです。

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目次

  1. 第18問 時効
  2. 第19問 詐害行為取消権
  3. 第20問 保証契約
  4. 第21問(設問1) 約款による契約
  5. 第21問(設問2) 約款による契約
  6. 第22問 請負または委任


第18問 時効

 時効に関する記述として、最も適切なものはどれか。
 なお、「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)により改正された民法が適用されるものとし、附則に定める経過措置及び特約は考慮しないものとする。

×ア 飲食店の飲食料に係る債権は、1年間行使しないときは、消滅する。(改正論点で5年になっています)
○イ 債権について催告がなされ、その後本来の時効期間が経過し、時効の完成が猶予されている間に、当該債権についての協議を行うことの合意が書面でされても、それに基づく時効の完成猶予の効力は生じない。(改正内容の細かい論点からの出題です。イについて、催告と協議の組み合わせのケースは協議→協議のみが完成猶予の効力をもちます(×催告→協議、×催告→催告、×協議→催告、〇協議→協議))
×ウ 債権は、時効の完成猶予や更新がなければ、債権者が権利を行使することができることを知った時から10年間行使しないときに初めて時効によって消滅する。(知った時から5年でも時効により消滅します)
×エ 天災のため時効の更新をするための手続を行うことができないときには、その障害が消滅した時から2週間を経過して初めて時効は完成する。(天災時の例外は「完成猶予」にのみ適用があります(その場合2週間ではなく3か月)が、「更新」には適用されません(という2重ひっかけ問題))


イは改正論点の細かい判断で得点は困難です。アとウを削って2択勝負が現実的でした。



第19問 詐害行為取消権

 詐害行為取消権に関する記述として、最も適切なものはどれか。
 なお、「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)により改正された民法が適用されるものとし、附則に定める経過措置は考慮しないものとする。

×ア 債権者による詐害行為取消請求が認められるには、被保全債権そのものが詐害行為より前に発生していなければならず、その発生原因となる事実のみが詐害行為より前に発生している場合に認められることはない。(被保険債権が詐害行為の前の原因に基づいて生じていればよいため、「発生原因となる事実のみが詐害行為前に発生している場合」でも詐害行為に該当します)
×イ 債権者は、詐害行為によって利益を受けた者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しをすることはできるが、その行為によって利益を受けた者に移転した財産の返還を請求することはできない。(行為の取り消しに加えて、その行為によって利益を受けた者に移転した財産の返還も請求できます)
×ウ 債務者が、その有する不動産を処分した場合であっても、当該不動産を譲り受けた者から当該不動産の時価相当の対価を取得していれば、債権者による詐害行為取消請求が認められることはない。(原則は正しいですが、例外として以下の3つのいずれにも該当する場合は詐害行為になるため不適切です。
⑴不動産の金銭への換価等により、隠匿等の処分をするおそれが現に生じている
⑵債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたこと
⑶受益者が、債務者の隠匿等の処分をする意思を知っていたこと)

○エ 詐害行為の目的である財産が可分であり、かつ、その価額が被保全債権の額を超過するときは、債権者は、被保全債権の額の限度においてのみ詐害行為の取消しを請求することができる。(正しいです。目的財産が可分である場合は自己の債権額を限度において請求できますが、目的財産が不可分である場合は詐害行為全体について取消権を行使できます)


エを知っていれば一発ですが、そうでない場合はイとウを削って2択勝負になります。




第20問 保証契約(アで判断可能)

 事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約に関する記述として、最も適切なものはどれか。
 なお、「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)により改正された民法が適用されるものとし、附則に定める経過措置及び特約は考慮しないものとする。

○ア 個人事業主の配偶者であって、当該事業に現に従事していない者が、主たる債務者である当該個人事業主の保証人になろうとする場合、保証債務を履行する意思を公正証書により表示する必要がある。
×イ 自然人が保証人となる場合、保証契約の締結の日前14日以内に作成された公正証書で保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。
×ウ 主たる債務者が法人である場合のその取締役が保証人になろうとする場合、保証債務を履行する意思を公正証書により表示する必要がある。
×エ 法人が保証人となる場合には、保証契約は書面で行う必要はない。



改正により新設された法律ですが、基本的なサービス問題です。

公証人による保証意思確認手続が不要となる者




第21問(設問1) 約款による契約

 以下の会話は、株式会社Zの代表取締役甲氏と、中小企業診断士であるあなたとの間で行われたものである。この会話を読んで、下記の設問に答えよ。
 なお、「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)により改正された民法が適用されるものとし、附則に定める経過措置は考慮しないものとする。

甲 氏:「インターネットを使ったBtoCの新しいサービスを始める予定です。そのサービスを利用してもらうに当たっては、ルールを作って、そのサービスの利用者に守ってもらいたいと考えているのですが、どのようにすればよろしいでしょうか。」

あなた:「そのルールは、定型約款に該当し得ることになります。定型約款を御社とサービス利用者との間の合意内容とするためには、サービス利用者の利益を一方的に害するような内容でないこと等を前提として、その定型取引を行うことを合意した上で、御社が( A )。」

甲 氏:「ありがとうございます。他に対応しなければならないことはありますか。」

あなた:「一時的な通信障害が発生した場合等を除き、( B )。」

甲 氏:「分かりました。途中でその定型約款の内容を変更しようと思ったときには、変更は可能なのでしょうか。」

あなた:「( C )。その定型約款は慎重に作成する必要がありますので、私の知り合いの弁護士を紹介しますよ。」

甲 氏:「よろしくお願いいたします。」

(設問1)
 会話の中の空欄AとBに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。

○ア A:あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨をサービス利用者に表示していれば足ります
   B:定型取引を行うことの合意前においてサービス利用者から請求があった場合にその定型約款の内容を示さないと、定型約款は契約内容となりません
×イ A:あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨をサービス利用者に表示していれば足ります
   B:定型取引を行うことの合意前においてサービス利用者から請求があった場合にその定型約款の内容を示さないと、定型約款は契約内容となりません。これは、合意後に請求があった場合も同様です
×ウ A:サービス利用者との間で定型約款を契約の内容とする旨の個別の合意をするしかありません
   B:定型取引を行うことの合意前においてサービス利用者から請求があった場合にその定型約款の内容を示さないと、定型約款は契約内容となりません
×エ A:サービス利用者との間で定型約款を契約の内容とする旨の個別の合意をするしかありません
   B:定型取引を行うことの合意前においてサービス利用者から請求があった場合にその定型約款の内容を示さないと、定型約款は契約内容となりません。これは、合意後に請求があった場合も同様です


改正により新設された法律です。

Aの判断は容易ですが、Bまでは困難であり判アとイの2択勝負になります。




第21問(設問2) 約款による契約

会話の中の空欄Cに入る記述として、最も不適切なものはどれか。

○ア 定型約款の中に、民法と異なる変更要件に係る特約を規定すれば、いかなる特約であっても、当該特約に従って自由に変更ができます
×イ 定型約款の変更は、効力発生時期が到来するまでに周知しないと、その効力を生じないことがあります
×ウ 定型約款の変更をするときは、効力発生時期を定め、かつ、変更する旨及び変更後の内容並びにその効力発生時期を周知しなければなりません
×エ 変更がサービス利用者の一般の利益に適合するときは、個別にサービス利用者と合意をすることなく、契約の内容を変更することができます


法律を知らなくても「いかなる特約であっても」の文脈で×にすることもできる可能性はあります。




第22問 請負または委任

請負又は委任に関する記述として、最も適切なものはどれか。
なお、「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)により改正された民法が適用されるものとし、附則に定める経過措置及び特約は考慮しないものとする。

○ア 委任において、受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。(原則は受任者が自ら委任事務を処理する必要がありますが、①委任者の許諾がある場合、②やむを得ない事由がある場合には、例外として、他人に委任事務を代行させることができます(復委任))
×イ 請負人が品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡した場合、注文者は、その引渡しを受けた時から1年以内に当該不適合を請負人に通知しない限り、注文者が当該不適合を無過失で知らなかった場合でも、当該不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることはできない。(請負人が仕事の目的物の契約不適合を知っていたとき、または知らなかったことにつき重過失があったときには、注文者は1年以内に契約不適合の通知をしなくても、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求、および契約の解除ができるという例外があります)
×ウ 不可抗力によって委任事務の履行をすることができなくなったときは、受任者は、既にした履行の割合に応じた報酬さえも請求することはできない。(①不可抗力により委任事務の履行ができなくなった場合、②委任が履行途中で終了した場合は、受任者は、すでにした履行の割合に応じた報酬の請求ができます)
×エ 不可抗力によって仕事を完成することができなくなった場合において、仕事内容が可分であり、注文者が既履行部分の給付によって利益を受けるときでも、請負人は、当該利益の割合に応じた報酬さえも請求することはできない。(仕事内容が可分で、注文者が既履行部分の給付によって利益を受けている場合は、請負人は注文者が受ける利益の割合に応じて報酬の請求ができます)


改正論点ですが、こまかい知識が必要で対応は困難でした。




今年の経営法務の問題解説は以上です。


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