えぐちです。本日、2次試験結果が公表されました。
https://www.j-smeca.jp/attach/test/r02/r02_2ji_toukei.pdf
毎年、2次試験結果公表時に出題の趣旨が公表されます。
https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/010_c_r02_shiken/R02_2ji_shushi.html
今年も、出題の趣旨を踏まえた出題者の意図を振り返りたいと思います。
事例Ⅰ
第1問(配点40点)
以下は、老舗蔵元A社を買収する段階で、企業グループを経営する地元の有力実業家であるA社長の祖父に関する設問である。各設問に答えよ。
(設問1)
A社の経営権を獲得する際に、A社長の祖父は、どのような経営ビジョンを描いていたと考えられるか。100字以内で答えよ。
【出題の趣旨】
老舗蔵元A社を買収する段階で、買収側企業グループのトップマネジメントが、どのようなビジョンを描いていたかについて、分析する能力を問う問題である。
「買収側企業グループ」を強調しており、買収理論の応用(老舗蔵元の獲得)や企業グループへの影響(相乗効果)が期待されていたと解釈できます。
(設問2)
A社長の祖父がA社の買収に当たって、前の経営者と経営顧問契約を結んだり、ベテラン従業員を引き受けたりした理由は何か。100字以内で答えよ。
【出題の趣旨】
買収側企業の被買収側企業に対する条件提示の意図について、理解して分析する能力を問う問題である。
「被買収企業に対する条件提示」という表現が追加されています。
つまり、被買収企業(≒売り手企業)側に希望があり、その希望に沿った条件が「経営顧問契約」や「ベテラン従業員の引き受け」であると解釈できます。
与件には「屋号を絶やすことへの無念さに加えて、長年にわたって勤めてきた10名の従業員に対する雇用責任から廃業を逡巡していた。」とあるため、「屋号の存続」や「従業員の雇用責任」が期待されていたと解釈できます。
第2問(配点20点)
A社では、情報システム化を進めた若い女性社員を評価し責任者とした。ベテラン事務員の仕事を引き継いだ女性社員は、どのような手順を踏んで情報システム化を進めたと考えられるか。100字以内で答えよ。
【出題の趣旨】
買収された後のA社が、買収以前の事務処理を情報システム化する際に、どのような手順を踏んだのかについて、理解して説明する能力を問う問題である。
「買収以前の事務処理」が追加されており、情報システム化の対象が具体的に指摘されています。また「説明する能力」が求めれているため、分析でなく手順を整理記述する能力が求められていたことがわかります。
このため、「複雑な事務作業や取引先との商売」「2年ほど共に働いて知識や経験を受け継いだだけでなく、それを整理して情報システム化を進めた」などの根拠が加点対象になっていると考えられます。
第3問(配点20点)
現在、A社長の右腕である執行役員は、従来のルートセールスに加えて直販方式を取り入れ売上伸長に貢献してきた。その時、部下の営業担当者に対して、どのような能力を伸ばすことを求めたか。100字以内で答えよ。
【出題の趣旨】
主たる販売方法がルートセールス方式から直販方式に変更される際に、営業担当に求められる能力が、どのように変化するのかについて、分析する能力を問う問題である。
販売方法の「変更」とそれに伴う営業担当者に求められる能力の「変化」が期待されていたことがわかります。
少し深読みになりますが、ルートセールスと比較した直販方式は、「販売チャネルの変化」であると解釈できます。
サプライチェーンにおいて、従来のルートセールスが「卸売り」だとすれば、直販方式は「小売り」になります。
より最終消費者に近いチャネルでの販売になりますので、「消費者のニーズを収集した商品改善」や「ニーズに沿った商品提案」などができる能力が求められます。
試験委員の澁谷覚氏の著書「はじめてのマーケティング(有斐閣)」P222では、直販方式を以下のように説明しています。
≪直販方式≫
クルマ、新聞、ピアノなどの業界では、卸機能を省略したうえで、それぞれにエリアの小売店と直接契約を結び、取引をする直販方式が採用されてきました。直販方式の場合、各地の小売店はメーカーによって直接コントロールされます。
「卸機能を省略」という説明から、直販方式は卸売業を飛ばした小売店との直接取引であることがわかります。
より最終消費者に近くなりますので、ニーズ収集やこれを反映した商品開発などが求められ、この設問で求められた能力であると解釈できます。
第4問(配点20点)
将来、祖父の立ち上げた企業グループの総帥となるA社長が、グループ全体の人事制度を確立していくためには、どのような点に留意すべきか。中小企業診断士として100字以内で助言せよ。
【出題の趣旨】
企業グループのトップマネジメントとして、グループ全体の人事制度確立の方法について、助言する能力を問う問題である。
企業グループの「総帥となるA社長」が「トップマネジメントとして」に置き換えられており、単なる「企業グループのオーナー」でなく、「企業グループの経営者」であることを強調していると解釈できます。
これにより、出題者は、A社単体のマネジメントでなく、企業グループのマネジメントを意図した人事制度確立について助言させる意図があったことがわかります。
具体的には、飲食店や高級旅館などの事業特性を踏まえた人事制度が期待されていたと解釈できます。
以上です。
出題者の趣旨は、一見たいした情報がないように見えますが、そのわずかな表現の違いから、題意が見えてきます。
出題者の意図を考えることは2次試験で最も重要なトレーニングです。
みなさんもぜひ比較し、その違いや意図を考えてみてください。
次回は事例Ⅱの趣旨を考察します。
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