えぐちです。
今日は事例Ⅱの出題の趣旨を考察していきます。
第1問(配点20点)
現在のB社の状況について、SWOT分析をせよ。各要素について、①~④の解答欄にそれぞれ40字以内で説明すること。
【出題の趣旨】
B社内外の経営環境を分析する能力を問う問題である。
特に有益な情報はありません。
第2問(配点30点)
Z社との取引縮小を受け、B社はハーブYの乾燥粉末の新たな取引先企業を探している。今後はZ社の製品とは異なるターゲット層を獲得したいと考えているが、B社の今後の望ましい取引先構成についての方向性を、100字以内で助言せよ。
【出題の趣旨】
B社の現状を踏まえて、既存製品の新たな販売先を提言する能力を問う問題である。
「ハーブYの乾燥粉末」が「既存製品」に置きかえられており、「ハーブYの乾燥粉末」が原材料でなく「製品」であることが明らかにされました。
第3問(配点30点)
B社社長は最近、「眠る前に飲むハーブティー」の自社オンラインサイトでの販売を手がけたところ、ある程度満足のいく売上げがあった。
(設問1)
上記の事象について、アンゾフの「製品・市場マトリックス」の考え方を使って50字以内で説明せよ。
【出題の趣旨】
B社の新規事業について、既存事業との関係性を分析する能力を問う問題である。
「新規事業」と明記されたことにより、既存製品を既存市場に導入して市場占有率拡大を図る「市場浸透」は不正解であると判断できます。
また、第2問において「ハーブYの乾燥粉末」が「既存製品」であることが明示されているため、今回販売した「眠る前に飲むハーブティー」は「新製品」である可能性が高いと考えられます。
これにより、出題者が意図した本問の正解は「製品開発」または「多角化」である可能性が高くなります。
(設問2)
B社社長は自社オンラインサイトでの販売を今後も継続していくつもりであるが、顧客を製品づくりに巻き込みたいと考えている。顧客の関与を高めるため、B社は今後、自社オンラインサイト上でどのようなコミュニケーション施策を行っていくべきか。100字以内で助言せよ。
【出題の趣旨】
B社の新規事業について、顧客志向の価値創造を可能にする施策を提言する能力を問う問題である。
「顧客志向の価値創造」という特徴的な表現が追加されました。
試験委員の澁谷覚氏の著書「はじめてのマーケティング(有斐閣)」P13では、顧客志向を以下のように説明しています。
顧客志向とは、顧客のニーズを満たすことを、企業活動の起点としようという考え方です。したがって、そこでは自分たち企業の都合ではなく、市場を構成している消費者や顧客の都合を優先することが重要とされます。
「消費者や顧客の都合を優先することが重要」とあるように、B社視点でなく、顧客視点での取り組みが重要とされます。
また同著書によれば、消費者の関与レベルを高めるためには以下の施策があるとされています。
消費者の関与を高めるための方法 | 有効な商品 |
⑴金銭的または社会的なリスクを高める | 住宅、クルマ、着物など |
⑵専門性をもたせる | カメラ、ワインなど |
⑶感情的アピールを強める | フィギュア、アイドルなど |
⑷記章的(シンボル的)な価値を込める | 大学、指輪など |
「はじめてのマーケティング(有斐閣)」P131をもとにEBAが作成
上記をB社の製品に当てはめた場合、製品の特性からも⑶、⑷は馴染みません。
⑴や⑵であると仮定した場合、「眠る前に飲むハーブティー」はヘルスケア市場において「安眠効果」を期待する顧客が購買していますので、⑴における「健康面の悩み」だったり、⑵における「ハーブのもつ効能や用途知識」といった情報の発信は、顧客の関与を高めるために有効であると考えられます。
第4問(配点20点)
B社社長は、自社オンラインサイトのユーザーに対して、X島宿泊訪問ツアーを企画することにした。社長は、ツアー参加者には訪問を機にB社とX島のファンになってほしいと願っている。絶景スポットや星空観賞などの観光以外で、どのようなプログラムを立案すべきか。100字以内で助言せよ。
【出題の趣旨】
B社の強みを生かし、新規事業で獲得した顧客のロイヤルティを高める施策を提言する能力を問う問題である。
「B社の強みを生かし」と書かれているため、B社の保有資源を活用した施策が期待されていることがわかります。
これにより、X島のB社資源である「年4~5回収穫できる効率的栽培方法」「B社の存在を誇りに感じ始めている島民(の協力)」「生命力あふれる緑の葉が海から吹く風に揺れ、青い空と美しいコントラストを生み出しているハーブ畑」などは加点対象になっていると解釈できます。
少し尖った解釈になりますが、あえて「B社の強み」と明示したことで、「X島の観光資源は対象外」と示唆したと考えることもできます。
この解釈によれば、設問条件である「絶景スポットや星空観賞などの観光以外」の縛りは、「1年の長い期間楽しめるマリンスポーツや釣り(いずれも島の観光資源)」も含まれることになります。
仮に題意がその通りだった場合、これらの与件根拠を使用させない意図がありながらも、あえてこれらの根拠を与件に盛り込む設計は、いささか意地悪な気もします。
今年の事例Ⅱは第1問や第4問を除いてここ3年間の出題傾向をガラッと変えてきていますので、出題者が変わった可能性が高いと考えられます。
今回紹介した試験委員の澁谷覚氏は、昨年に試験委員に参加してから、1次試験の企業経営理論の作問に4~5問関与されていますが、おそらく2次試験(事例Ⅰと事例Ⅱ)にも関与されていると思われます。
試験委員の著書を読むことで、問題で使用される用語(事例Ⅰの直販方式や事例Ⅱの関与、顧客志向など)をストレスなく解釈できるように備えておくことは、2次試験対策上重要なことだと思います。
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641150034
次回は事例Ⅲと事例Ⅳを考察します。