令和3年度のB社物語

事例Ⅰにつづき今回は令和3年度事例Ⅱの物語です。

前回のA社はこちらから読めます。

B社は1953年創業の豆腐製造販売業社です。

良質な軟水が流れる清流を水源とする地下水を使用した豆腐が評判で、品評会でもたびたび表彰されています。

現在のB社社長は2000年に2代目から事業を継承しました。
その当時、地場資本のスーパーマーケットからの打診があり、B社の豆腐をプライベート・ブランド(PB)として受注しました。
B社は数回コンペで受注を繰り返し、最盛期のPB売上比率はB社売上の半分を占めていました。
しかし、2015年にコンペで大手メーカーに敗れ、PB契約は終わりました。この影響は大きく、B社は製造設備や人員を大幅に整理することになりました。

その後B社は、売上回復を図るべく、豆腐の移動販売を開始しました。
早期に売上を回復するために、自社展開ではなくフランチャイズ方式により事業展開することにしました。
フランチャイズとはいえ、フランチャイジーは加盟時に登録料と冷蔵販売者を用意し、以降はB社から商品を仕入れるのみで、その他のフィーは不要とする方式としました。
フランチャージーにとっては経営の自由度が高まる利点がありますが、B社にとっては販売情報以外のマーケティング情報が収集できないなど欠点もあります。
しかし自由度の高さがよかったのか、元商店経営者やB社が整理解雇した元社員などがフランチャイジーとして加盟しました。

移動販売は戸別訪問のほか、商店街や遊戯施設、病院などの駐車場でも販売しました。特に駐車場での販売では高齢者が知り合いを電話で呼び、井戸端会議のきっかけとなりました。
またフランチャイジーの一人が、試食を勧めながら商品説明を積極的に行ったことで高単価商品の販売につながり、客単価を向上させることもできました。
さらに移動販売のお得意様である高齢者顧客を招いた毎秋の収穫祭は、子連れの参加者が増加するなど顧客との関係強化に貢献していました。
B社の顧客層は、X市の年齢分布を踏まえると主婦層の顧客が少ないという課題がありましたが、移動販売により順調に高齢者層への販売を伸ばすことができました。

次にB社社長は、社会全体のオンライン化の流れを踏まえ、ネット販売を通じて地元産大豆の魅力を全国に伝えたいと考えました。
とはいえ、B社には自社で受注用サイトを作るノウハウはありませんでした。また豆腐のECサイトは全国で多数展開されており、知名度のないB社が自社でサイトを立ち上げたとしても顧客獲得は難しいでしょう。
そこでB社社長は、自社の地下水を購入し、ECサイトでペットボトル水として販売しているY社を思い出しました。

Y社は地域内の大手米穀店で、X市の米の全国販売に力を入れています。Y社は自社サイトで、B社から購入した良質な地下水をY社サイトのお得意様に限定販売しています。
またY社は、「X市の魅力を全国に」との思いから、X市企業の佃煮、干物などもY社サイトでコラボ企画として販売しています。
そしてグルメ雑誌でY社サイトの新米やコラボ企画が紹介されたことがきっかけで、全国の食通を顧客として獲得し、サイトの売上が拡大しています。
そこでB社は、自社の地下水を卸しているY社との関係を活かし、Y社ECサイトで自社の豆腐を販売してもらうことにしました。

B社商品ラインナップは手頃な価格の絹ごし豆腐、木綿豆腐のほか、柚子豆腐や銀杏豆腐などの季節変わり豆腐も月替わり商品があります。
B社社長はどの商品を販売すべきか悩みましたが、以前に豆腐ECサイトで豆乳とにがりをセットにした商品が販売されていることを知り、「手作り豆腐セット」を開発して移動販売で販売しました。
この商品は、蒸し器で仕上げる手間のかかる商品ですが、出来立ての豆腐を味わうことができます。

新型コロナウイルス感染症のまん延でリモートワークが浸透し、自宅での食事にこだわりを持つ家庭が増加しており、B社の手作り豆腐セットは移動販売でお得意様以外の主婦層に人気となりました。
自宅での食事にこだわりをもつ層の増加はX市内に限ったことではなく、全国で同様のニーズがあると考えられます。それならこの顕在化しているニーズを、Y社ECサイトのチャネルを活かすことで取り込めるのではないかとB社社長は考えました。
そこでB社は、Y社ECサイトを利用する「全国の食通」のうち、「自宅での食事にこだわりをもつ主婦」をターゲットとして絞り込むことにしました。

しかし、手作り豆腐セットは多数の豆腐ECサイトですでに販売されているため、同様の商品をネットで販売してもターゲット層に関心を持ってもらうことは難しいと思われます。
そこでB社は、Y社ECサイトのコラボ企画を活用した販売ができないかと考え、具体的な企画を検討することにしました。

Y社の「X市の魅力を全国に」という思いから、B社社長は、自社が毎秋開催する収穫祭で得意先である顧客に振る舞っていた「豆腐丼」を思い出しました。
山岡士郎が「…ワインと豆腐に旅させちゃいけない」と吐き捨てた通り、豆腐はできたてが最も風味が良く、豆腐と同じX市の地下水で炊き上げた新米との相性も抜群です。

「自社の手作り豆腐セットをY社が販売するペットボトルの水や新米とコラボ企画で販売することで、X市の魅力を全国に訴求できる。」

B社社長は考えました。
そして、ただコラボ企画として販売するだけでなく、Y社ECサイト上で手作り豆腐セットのレシピを紹介することで、Y社とのコラボによる商品の魅力度を高め、全国の豆腐ECサイトで販売されている手作り豆腐セットと差別化を図ることが期待できそうです。

B社は移動販売により順調に販売を拡大させることができましたが、新型コロナウイルス感染症まん延により、状況が一変しました。
人的接触を避けるために駐車場販売から個別販売に変更を希望する顧客が増加したことで、井戸端会議を通じた口コミが期待できなくなりました。
また戸別訪問自体を断る顧客が増えたことで直接商品説明することができなくなり、試食の自粛もあり、客単価を向上させる機会が減少してしまいました。

この影響で売上が3割も落ち込んでしまったB社は、苦境を乗り越えるため、新たな一手を考えました。
人的接触を控えたい、自宅を不在にする日にも届けてほしいという高齢者や主婦層の声を踏まえて、生協を参考に冷蔵ボックスを使った置き配を開始することにしました。

まずB社は、お得意様である高齢者向けのサービス体制の構築に取り組みました。冷蔵ボックスを用意し、フランチャイジーが試食販売のために独自で商品を小分けにして使い捨て容器に盛り付けていた販売方法の代わりに、B社が試食用の小分け商品や小分け容器を用意することにしました。さらに置き配ではこれまでのような商品説明ができなくなるため、B社があらかじめ商品説明や月替わり商品の案内などを作成しました。

つぎにフランチャイジーに向けては、多くの高齢者がインスタント・メッセンジャー(IM)の利用を敬遠し、電話でのやりとりを好むため、置き配前後に電話による通知を徹底させることにしました。
電話では置き配時に配ったチラシをもとに、月替わり商品や試食商品を説明することで、次回以降の再購買や客単価向上を図るようにアドバイスしました。
まだその成果は未知数ですが、置き配により主要顧客である高齢者の離反を防ぎ、売上回復につなげることを期待しています。

さらにB社は、課題でもある主婦層顧客の獲得に取り組みました。X市周辺の主婦層の顧客獲得をめざして、豆腐やおからを材料とする菓子類の新規開発と移動販売に取り組むことにしました。

まず製品戦略ですが、豆腐製造業であるB社社長には菓子類の開発経験はなく、またターゲット層となる主婦層が求める菓子のニーズを収集するためのチャネルがありません。
お得意様ではない主婦層顧客は移動販売時にIMで通信することができますが、IMを使用してニーズを収集するという方法は現実的ではありません。
そこでB社社長は、地域繁盛店を支える京都修行仲間でもある、和菓子店店主の力を借りれないかと考えました。

X市は室町時代に戦火を避けて京都から移り住んだ人々の影響で、小京都の面影を残しています。そのため京文化への親近感が強い街です。
X市の職人には京都の老舗で修行した者が多く、地元の繁盛店はB社歴代社長や新しい素材を使った菓子で人気を博す和菓子店店主、予約が取りにくいと評判の割烹の板前など、京都で修行した職人が支えています。

和菓子店店主は新しい素材を使った菓子で人気を博しているため、「豆腐」や「おから」など、新しい素材を使った菓子のアイデアをもらえるかもしれません。
また店主は和菓子人気店なので、主婦層の顧客との直接の接点もあると考えられます。和菓子店を通じてターゲット層のニーズを収集できるかもしれません。
和菓子店店主のノウハウやチャネルと、B社社長のコンペでの受注経験を活かせば、X市周辺の主婦層に求められる和菓子が開発できそうです。
X市は京文化への親近感が強い街なので、この地域向けの和菓子は「京文化」のコンセプトがよいでしょう。

そしてターゲット層へのコミュニケーション戦略は、ターゲット層の好意的な反応や積極的な共有を促すような取り組みが必要になります。
幸いなことにB社のフランチャイジーはターゲットである主婦層と少数ながらIMにより繋がっています。
このため、IMにより人気和菓子店との共創商品であることや、京文化をコンセプトとした商品であることを発信することで、主婦層の関与を高めることが期待できます。
話題性を高めることができれば、共有や拡散も期待できます。

さらにB社は、子連れで人気の収穫祭もコミュニケーション戦略に活かすことを検討しています。
お得意様である高齢者顧客が食育のために子連れで参加して好評を得ていますので、まだ参加していないお得意様でない主婦層が子連れで参加した場合でも喜んでもらえるのではないでしょうか。
これらの施策を通じて顧客関係強化が期待できます。

B社は、X市の魅力を全国に訴求するとともに、X市周辺の主婦層から高齢者層まで幅広い層を顧客に豆腐の魅力を伝えながら、豆腐製造業として事業を存続させていくために日々努力しています。

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