出題の趣旨を踏まえた令和4年度の事例Ⅳ

最終回は令和4年度の事例Ⅳについて書きます。

令和3年度の事例Ⅳはこちらをお読みください。

第1問(配点25点)

(設問1)

D社と同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比較してD社が優れていると考えられる財務指標を2つ、D社の課題を示すと考えられる財務指標を1つ取り上げ、それぞれについて、名称を(a)欄に、その値を(b)欄に記入せよ。なお、優れていると考えられる指標を①、②の欄に、課題を示すと考えられる指標を③の欄に記入し、(b)欄の値については、小数点第3位を四捨五入し、単位をカッコ内に明記すること。また、解答においては生産性に関する指標を少なくとも1つ入れ、当該指標の計算においては「販売費及び一般管理費」の「その他」は含めない。

【出題の趣旨】
財務諸表を利用して、診断及び助言の基礎となる財務比率を算出する能力を問う問題である。


令和3年度の出題の趣旨と変わりありませんでした。設問に「生産性を1つ入れる」条件が追加されただけで、要求される能力に変更はありません。

(設問2)

D社が同業他社と比べて明らかに劣っている点を指摘し、その要因について財務指標から読み取れる問題を80字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
財務比率を基に、事例企業の財務的問題点とその要因を分析する能力を問う問題である。


設問の「要因について財務指標から読み取れる問題」という日本語の解釈に悩みましたが、趣旨で言い換えてくださりありがとうございました。

この趣旨から、財務比率から問題点を特定し、その要因を与件から特定する従来通りの処理が期待されていたと解釈できました。ありがとうございます。

第2問(配点20点)

(設問1)

D社では、労働時間が週40時間を超えないことや週休二日制などをモットーとしており、当該業務において年間最大直接作業時間は3,600時間とする予定である。このとき上記のデータにもとづいて利益を最大にするセールスミックスを計算し、その利益額を求め(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。

【出題の趣旨】
3Dプリンターを用いた新事業における短期利益計画において、与えられた製品データと制約条件のもとで、利益を最大化するセールスミックスを算出する能力を問う問題である。


「短期利益計画」という会計用語が明記されています。

(設問2)

最近の国際情勢の不安定化によって原材料であるアルミニウム価格が高騰しているため、D社では当面、アルミニウムに関して消費量の上限を年間6,000kgとすることにした。設問1の条件とこの条件のもとで、利益を最大にするセールスミックスを計算し、その利益額を求め(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。

【出題の趣旨】
当該事業の短期利益計画において、制約条件が複数存在する場合のもとで、利益を最大化するセールスミックスを算出する能力を問う問題である。


(設問1)と同様です。

第3問(配点35点)

(設問1)

D社は買い取った中古車の点検整備について、既存の廃車・事故車解体用工場に余裕があるため月間30台までは臨時整備工を雇い、自社で行うことができると考えている。こうした中、D社の近隣で営業している自動車整備会社から、D社による中古車買取価格の2%の料金で点検整備業務を請け負う旨の提案があった。点検整備を自社で行う場合の費用データは以下のとおりである。このときD社は、中古車の買取価格がいくらまでなら点検整備を他社に業務委託すべきか計算し(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。なお、本設問では在庫に関連する費用は考慮しないものとする。

【出題の趣旨】
中古車販売事業における点検整備業務において、与えられた費用データに基づいて関連原価を適切に把握し、外注すべきか否かに関する適切な意思決定について助言する能力を問う問題である。


関連原価は会計用語で、意思決定によって金額が変化するコストのことです。差額原価収益分析を行う際に必要な概念です。

(設問2)

(中略)この投資案の年間キャッシュフロー(初期投資額は含まない)を計算し(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。さらに、(c)欄には(a)欄で求めた年間キャッシュフローを前提とした回収期間を計算し、記入せよ(単位:年)。なお、解答においては小数点第3位を四捨五入すること。この条件のもとで当該投資案の投資時点における正味現在価値を計算し(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。

【出題の趣旨】
工場拡張投資において、与えられた予測情報に基づいて適切に将来キャッシュフローを計算し、回収期間を算出する能力を問う問題である。


「工場拡張投資」という会計用語が明記されています。

(設問3)

(中略)この条件のもとで当該投資案の投資時点における正味現在価値を計算し(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。

【出題の趣旨】
工場拡張投資において、計画された期間終了後のターミナルバリューと各期のキャッシュフローを算出し当該投資案の正味現在価値を求めることで、投資の経済性評価を行う能力を問う問題である。


ターミナルバリューとは予測期間以降の企業価値のことで、「経済命数経過後のCFの価値」を意味します。

本問では継続価値を配当割引モデル(ゼロ成長モデル)で計算して加算することが期待されていたと解釈できます。

すでに解説会で共有していますが、この問題の正解率は513名中1名の0.2%です。

いまこの問題を見て難しいと感じる人はそれほど多くないと思いますが、税理士や公認会計士、公認サンタクロースなど会計の猛者が受験する2次試験での現実の正解率は0.2%です。

客観的な事実をベースに令和5年度の対策をすることをお勧めします。

第4問(配点20点)

D社が中古車販売事業を実行する際に考えられるリスクを財務的観点から2点指摘し、それらのマネジメントについて100字以内で助言せよ。

【出題の趣旨】
新規事業である中古車販売事業の諸特性を理解し、それらに付随する財務的リスクを指摘するとともに、それらのリスクマネジメントについて助言する能力を問う問題である。


「事業の諸特性」、つまり事業特性を踏まえた財務的リスクの指摘が期待されていたことがわかります。

与件から新規事業は①中古自動車の在庫事業、②輸出事業という2つの事業特性をもつことがわかりますので、これらの特性を踏まえた財務リスクとその対応を助言する解答が期待されていたと判断できます。

令和4年度の事例Ⅳは、試験直後は阿鼻叫喚の声が聞かれました。

EBAの再現答案採点サービスにおいても、素点の平均点は34点となりましたが、不合格者137名の得点開示平均点は52点と20点近くプラス調整されています。

多くの受験生は「こんなにできたつもりはない」と感じていらっしゃると思います。

令和4年度の2次試験はプラス補正がかかったため、特定の問題で得点できた方は総得点上有利となりました。

しかし、受験生全体の平均点が高い年はマイナス補正がかかり、素点未満の得点で返されることがあります。

令和5年度の事例Ⅳは高い確率で易化するため、平均点は高くなります。

事例Ⅳで稼ごうと考えている方は、診断士2次試験における得点調整の存在を考慮したうえで対策することをお勧めします。