B社は皿や茶碗など陶磁器の卸売業者です。現経営者は2代目ですが、6年前に3代目が入社しています。
3代目は、X市から、「返礼品の中でもっと目立ち、市とX焼のファンを増やすような返礼品の企画を考えてほしい」との依頼を受けました。
現在でもX市の返礼品の中にX焼はありますが、全国の返礼品の中で埋もれている状態です。
そこで3代目は、ブランド価値構造のうち、消費者にもたらす感覚価値と観念価値を意識して、返礼品の企画を考えました。X市には、じっくり炙った食材を地元の発酵調味料と混ぜ合わせて食べる郷土料理があります。
3代目は、オンライン動画サイトに、X市の郷土料理とX焼を紹介する動画を投稿しました。
3代目はこの動画で、B社オリジナルの陶磁器を直接ガスコンロに乗せればこの料理が家庭でも簡単に作れると実演して見せたところ、動画公開後のB社には、旅先で食べたこの味わいを自宅で再現したいという視聴者からの問い合わせが相次ぎました。
これをヒントに、B社のオリジナル陶磁器とX市の郷土料理をセットにした返礼品を企画しました。
セット返礼品とすることで、X市を訪れた人が旅先で食べた味わいを自宅で再現できるため、消費者の五感に働きかけるとともに、旅の思い出を呼び起こすこともできます。
X焼には窯元それぞれの魅力があるため、3代目は、消費者がいろいろな窯元の陶磁器を手にとれる機会をつくりたいと思っていました。
しかし、陶磁器祭りで接客をしていると、「あれもこれも欲しいが、家にはもうたくさんの食器がある。
収納スペースがないし、今あるものも捨てられない」と購入をためらう食器愛好家の声をよく耳にしました。
そこで3代目は、自社や窯元の事業機会拡大を図りつつ、食器愛好家のニーズを充足する新規事業に着手しました。
コロナ以前に、3代目は地元で新規開業するデザイナーズホテルの仕事に参画しました。
ここで使われるオリジナルの食器の担当を任されて企画し、地元の窯元に生産を委託したところ、その食器はホテルの経営者や宿泊客から高い評価を得ました。
さらに、3代目は、季節感や月ごとに変わる料理内容に合わせた色や形の食器を提案し続けました。
その結果、旅行の雑誌やウェブサイトなどに取り上げられたホテルの情報を見て、3代目の元に別の宿泊施設や飲食店からオリジナル食器の提案依頼が入り始めました。
3代目は、この機会と、地場産業との良好な関係を活かして、宿泊施設や飲食店等との協業を企画しました。
3代目が宿泊施設や飲食店で使用するオリジナル食器を企画して、クリエイター志望の地元の窯元に生産委託し、これらの食器を宿泊施設や飲食店を通じて貸し出すサブスクリプション事業です。
この事業において、宿泊施設や飲食店は、季節感や月ごとに変わる料理を提案し、3代目が料理内容に合わせた色や形の食器を企画します。
3代目は、彼らの依頼に応えることで、季節感ある料理の提案を受けることができ、窯元が生産した陶磁器を提供するチャネルとして活用することができます。
陶磁器祭りは大型連休にだけ開催されるイベントですが、この新規事業では、消費者が、季節ごと、月ごとに変わるいろいろな陶磁器を手に取れる機会をつくることができます。
食器愛好家の収納スペースを気にする必要も、今あるものを捨てる必要もありません。この新規事業を通じて、継続的にX焼に関する社会全般への情報発信が可能になり、販路を拡大することが期待できます。
B社のECサイトの新規顧客は増えましたが、3代目は、顧客の顔を直接見ながら販売できない寂しさで震えていました。
3代目は、今後は、X市の地元で開く店舗とECサイトの両方を利用する顧客を増やしていきたいと考えるようになりました。
3代目は、オンライン動画サイトに、家庭料理でも見違えるほどおいしそうに見える食器への盛り付け方を紹介する動画を作りました。
すると思いの外、再生回数が伸び、コロナ禍で家庭に関心を向けるようになった若者と見られる視聴者や海外の人々から、驚きや感動を表すコメントが書き込まれました。
そこで、3代目はオンライン動画サイトを観た人々を対象に、料理の盛り付け方を教えるイベントを開催することにしました。
B社の店舗が所在するX市は、大消費地からもそれほど離れていません。
自社店舗は建て直し、明るく開放感のあるスタイリッシュな空間に切り替えたため、顧客を迎える場として申し分ありません。
併設するカフェスペースでは自社の扱うX焼で軽食を提供しているため、このカフェをイベント会場として活用することで、店舗への集客に繋げることが期待できます。
3代目は、デザイナーズホテルの仕事を通じて、盛り付け映えや写真映えを考え抜き、季節感や月ごとに変わる料理内容に合わせた色や形の食器を提案し続けた経験があります。
このノウハウを活かして、カフェにおいて、盛り付け映えや写真映えする料理を提供したり、料理に合わせた食器の写真を自社ECサイトに掲載したりすることで、オンラインでの集客に繋げることも期待できます。
3代目のこれらの取り組みにより、さらなる窯元志望者の流入を促すことで、川上に当たる陶土屋や型屋、生地屋なども盛り上げて、X市の活性化に貢献していきたいと考えています。