令和6年度のC社物語

C社は搬送機器製造業です。

C社の社長は工作機械メーカーX社の出身で、搬送機器を含む工場設備レイアウト設計を担当していました。

そのため、工場の生産性を高めることを顧客に提案することが可能で、搬送機能についての有効な提案をすることもできます。

生産面においては、コンベヤ製品について、搬送体、駆動部、フレーム加工を内製化し、自社で組立可能な生産体制を保有しており、製品のメンテナンスに対応することも可能です。

C社は、増加傾向にある受注量に対応するため、製造部の「工程改善」による生産能力向上に取り組みました。

C社の生産工程は、前工程となる機械加工工程、次に製缶工程、そして後工程の組立工程がありますが、製缶工程の残業や休日出勤が多く、納期対応のため週次日程計画表の変更が常態化していました。

このため、ボトルネック工程である製缶工程について、作業者工程分析により作業のムダを特定したうえで、作業標準化を図りました。

前工程の機械加工工程や後工程の組立工程では、不適合品発生などの特別な場合を除き残業や休日出勤は生じていませんでした。

そのため、機械加工工程と組立工程で多能工を育成し、多工程持ちとすることで、製缶工程を応援できる体制を構築し、製缶工程の生産能力向上を図りました。

C社では、受注量の増加や納期短縮要請などの影響により、製造部の工程管理が混乱していました。

そこで、C社は、次のように工程管理業務の改善に取り組みました。

C社の営業部は、契約後には受注番号を付与して受注管理システムに受注情報を入力し、顧客企業が作成した製品仕様書および製品図面を設計部に引き渡します。

受注番号は製造部では製造番号として使われます。

設計部で製作図面が完成すると、生産管理課で必要とする各製造工程の工数計画を立て、顧客要求納期を基準として「製造番号ごと」の大日程計画を策定し、その大日程計画と設計部で作成された部品構成表に従って、資材管理課では必要材料と外注品の発注を行い、在庫管理しています。

しかし、「製造番号ごと」に大日程計画を策定しているため、ある受注製品の生産日程に変更が生じた場合、他の製品の生産日程を個別に調整する必要が生じ、工程管理が混乱します。

このため、「製造番号ごと」から「全製造番号」を統合した大日程計画を作成することにしました。

また、週次日程計画表の各作業の工数見積もりは、製造部各課長の経験を基に作成されています。

経験に基づく工数見積もりは客観的な基準がないため精度は低く、実際の生産においてブレが生じる可能性が高くなります。

このため、工数見積もりは経験でなく「実績データ」に基づいて作成することにしました。

さらに、C社の営業部では受注管理システムを工程管理に活用していません。

同様に、部品構成表はデジタルデータ化していますが、材料や外注品の発注と在庫管理に活用しているだけで、工数計画、大日程計画、進捗管理などでは活用していません。

部品構成表は最終製品を構成する中間組立品を可視化できるため、資材管理のみならず、工数計画や日程計画に活用できます。

受注管理システムや部品構成表を工数計画作成や進捗管理に活用することで、情報共有のタイミングや抜け漏れ解消など効率化ができるため、工程管理の混乱を抑制することができます。

また、製作図面はデジタルデータ化されていないため、これもデジタルデータ化することで、設計・仕様変更に柔軟に対応することができます。


設計変更があった場合、工数計画の変更などの工程管理の負荷が大きくなります。

設計担当者は、必要に応じて生産会議に参加していますが、毎回参加すれば製品の要求品質や製造容易性などを随時社内共有することができ、工程管理の混乱原因が減少します。

同様に、営業も生産会議に参加することで、製造部の稼働状況が共有できるため、無理な受注活動を抑制したり、生産調整がしやすくなったりすることで工程管理の混乱を抑制できます。

このようにC社は、工程管理で扱う情報の範囲や共有方法を改善することで混乱の抑制を図りました。

C社の顧客企業との契約金額は、最近の材料費や人件費の高騰に対応した見直しは行われているものの、現状のコスト高には対応できていませんでした。

そこでC社は、顧客企業と価格交渉を円滑に行うための社内の事前対策に取り組みました。

現状では、過去の契約金額を参考に、営業部員が材料費と社内加工費、その他の経費を合計して算出したうえで見積もりを決裁しています。

この方法でも現状のコスト高に対応できていないことから、見積もり金額が実態と乖離していると考えられます。

このため、材料費と社内加工費、その他の経費など見積もり精度向上が課題であると判断しました。

まず、材料費と外注加工費のコスト把握を改善します。

部品構成表によって必要部品が明らかにされ、材料と外注品の発注、そして在庫管理に活用されています。

部品構成表はデジタルデータとして管理しているため、過去のデジタルデータから実際の材料や外注品のコストが明確になり、類似製品に活用することができます。

つぎに社内加工費の見積もり精度を改善します。工数見積もりは製造部各課長の経験を基に作成されていますが、実績データを加工費の見積もりに活用することで、工数見積もりの精度を向上させることができ、正確な社内加工費を算出することが可能になります。

また、顧客から設計変更や納期変更などが生じることがあるため、これらの変更により生じる追加コストも反映する必要があります。

同様に、製缶工程の残業や休日出勤により想定外の人件費が発生している可能性があることから、これらのコストも考慮します。

現状では、営業部のみで見積もりを作成していますが、製造現場の稼働状況も加工費に大きく影響することから、見積もり作成は営業部だけでなく、製造部と連携し、工場の稼働状況なども考慮したうえで加工費を算出する必要があります。

これらの取り組みによって、材料費、外注加工費、社内加工費の見積もり精度の向上が期待でき、客観的なデータに基づいて顧客企業と価格交渉を行うことができそうです。

C社社長は、小規模の工場施設や物流施設の新設や更新を計画している企業と直接契約し、自社企画の製品を設計、製造することで事業を拡大したいと考えています。

この新しい事業展開を成功させるために、次のような戦略を考えました。

まず、C社には工場の生産性を高める提案力、搬送機能の提案力があるため、C社社長が営業部の人材を育成することで、提案力を営業活動で活かせるようにします。

また、C社には設計要員が在籍していますが、これまでは製品仕様書および製品図面を顧客企業が作成していたため、今後はC社の設計要員が作成できるようにする必要があります。

据付業務は顧客企業が行っていますが、今後はC社が対応する必要があるため、据付を内部化します。

また、現状は、メンテナンス業務を営業部が担当しています。

今後は、直接の契約先を拡大することで、小規模の取引先企業が増加するため、メンテナンスの業務量はこれまで以上に増大することが予想されます。

このため、メンテナンス業務を営業と分離することで、営業が直接受注活動に専念できるようにする必要があります。

これらの取り組みにより、搬送体、駆動部、フレーム加工を内製化し、自社で組立可能な生産体制を活用した受注活動が可能になります。